教員インタビュー

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准教授 土居 丈朗
研究領域 : 公共政策、経済政策

自主的に行動できる学生たちは
「冴えた大人」になれるはずだ。

地方を破綻に追い込んだ要因を探り当てる。

現在の日本は、歴史上かつてないほどの借金大国となっています。国だけでなく、自治体の借金も深刻化し、2006年に夕張市が事実上破綻したことは記憶に新しいところです。

ではなぜ、このような事態になったでしょう。過去を紐解いていくと、自治体の借金が大きく膨れ上がったのは、90年代に入ってからです。その要因として挙げられるのが、公共事業です。90年代に入りバブルが崩壊し景気が減速すると、国の方針で、自治体とともに景気対策として公共事業を大々的に行うことにしました。ただ、公共事業をするにもお金が要りますが、景気が後退すると国も自治体も税収が減って財源が足りません。そこで、公共事業の主な財源となったのが地方債です。公共事業を行うために、地方債というカタチで自ら借金を膨らませて行った。気がついたときには、その額は膨大に膨れ上がっていたのです。

研究を続ける励みになった慶應義塾・義塾賞。

その後、日本各地で多くの市町村が危機的な状況に追い込まれるなか、小泉政権は「三位一体の改革」を推し進めます。それは、自治体の主要な3つの収入源を改革するというもので、方向性自体は間違っていませんでしたが、この改革には「地方債」が含まれていなかったのです。

第二、第三の夕張市を出さないためには、どうすればいいのか。借金の泥沼から抜け出せないでいる自治体を、経済学の知識で救うことはできないだろうかと考え、私は地方債の研究に取り組みました。そして、経済学的見地から原因を追究・分析し、解決策をまとめたものが『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社刊)です。

自著の中で私は、「自治体は、身の丈にあった住民サービスを行っていく」ことを提唱しました。それを実践するのは、国からの補助金に頼らないで自らの能力を発揮していくことが不可欠ですから、我慢を強いられる場面も少なくありません。そのため、「地方に厳しすぎるのでは」と異を唱える声もありました。しかし、日本経済図書文化賞(2007年)、サントリー学芸賞(2007年)を受賞するなど学術的に評価され、さらには慶應義塾・義塾賞(2007年)をいただきました。賞をいただいたことは、情緒に流されず冷静かつ論理的に分析する私のスタンスを評価して下さったことの表れですから、義塾賞は研究を続けていく上での大きな励みになっています。

考える力を養うチャンスを提供していく。

私が経済学に興味を持ったのは、高校生のときでした。ちょうど消費税導入の時期で、新聞などの報道を通じて消費税への反対意見を耳にする度に、感情論的で説得力がないと感じていました。そうしたなか、ある経済学者が説いた消費税の経済効果に関する話は、なるほどと唸らせる説得力があったのです。もともと政治も経済も好きで、どちらに進むべきか迷っていたのですが、双方を複合的に扱える「財政」を経済学部で勉強したいと、進むべき道が定まりました。以来、財政にまつわる領域を研究してきたわけですが、経済学は、学べば何らかの資格を取得できるという学問ではありません。しかし「考え方を養う」という面から見れば、社会科学の中でも特に優れた学問です。学生たちが世の中に出て社会人になるときには、物事を冷静にとらえ、自らの軸を持ち、自分の意見をぶれずに言える「冴えた大人」になって欲しいと思っています。そのためにも、自ら考える力を養うチャンスを、どんどん提供していくつもりです。

余談ですが、経済学部にはゼミ対抗のソフトボール大会があり、私もバッターボックスに立つことがあります。毎年、優勝をさらっていくのは塩澤学部長が指導なさる「塩澤ゼミ」。今年は「打倒・塩澤ゼミ」という明確な目標を掲げ一丸となって戦った結果、6年目にして悲願の決勝トーナメントに出場し、春の大会では3位、秋の大会では準優勝という好成績をおさめました。ちなみに、塩澤ゼミとの試合では、一時リードしたものの、結局は逆転負け。この屈辱を晴らすべく、来年もまた、ゼミ生たちとともに挑むつもりです。こうした、学ぶ場以外でも学生と教員の交流の場があるのはとても良いことですよね。互いの距離が近くなって意見を自由に言いやすい場になるよう、私もより一層の努力をしていきたいと思います。

(2008年10月22日取材)

※プロフィール・職位はインタビュー当時のものです。

プロフィール

1993年
大阪大学経済学部卒業
1999年
東京大学大学院経済学研究科博士課程修了(東京大学経済学博士)
1999〜
2002年
慶應義塾大学経済学部専任講師
2002年〜
慶應義塾大学経済学部助教授(ただし02年8月〜04年3月は客員助教授)
2002〜04年
財務省財務総合政策研究所主任研究官
その間、内閣府経済社会総合研究所客員研究員、財務省財務総合政策研究所特別研究官、一橋大学客員助教授等を兼務

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