教員インタビュー

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准教授 新島 進
研究領域 : フランス文学

経済学部は「勉強」の場ではなく、
刺激的な「学び」の場を提供したい。

フランス文学から、現在の日本を見てみる。

専攻は近現代フランス文学で、なかでもレーモン・ルーセルという詩人、作家について研究してきました。ここ数年は、ルーセルが崇拝していたジュール・ヴェルヌを体系的に読んで、両者の影響関係について考察しています。より大きな研究課題は、この二人も深くかかわっている「独身者機械」という一芸術潮流で、これは「自由研究セミナー」という授業でとり扱っています。

ここでいう独身者とは、婚姻というシステムを逃れ、生身の異性よりは人形や機械といったものに幻想的な愛を求める精神の持ち主です。近代の産業社会の発展につれてこうした独身者は数を増やし、そのなかから「独身者機械」と定義される文学、芸術作品が生まれてきました。私はさらに、この「独身者機械」が今日の社会にどう継承されてきたのかという点にも関心を持っています。たとえば現代日本における「おたく」は、もしかしたら近代的独身者の末裔なのかもしれない。あるいは逆に違いがあるとすればそれはなにか、そういったことをさまざまな文学、映像作品などから考察しています。

音楽という趣味を通じた交流。

慶應に入学した当初は自分で創作をしたくて、所属していたSF研究会というサークルで小説を書いてみたりもしました。ですが日吉で授業を受けるうちに、いかに自分が文学というものに無知であるかを痛感したんですね。それで書くことよりも知ることに興味が移っていきました。

本格的に研究者を目指すきっかけとなったのは、20歳の頃に読んだルーセルの『ロクス・ソルス』です。それまで読んできた小説作品の常識をくつがえす内容に、たいへんな衝撃を受けました。どうも私は元来、なにか常軌を逸したものが好きな性分のようですが、ともかくそれ以来、ルーセルにとりつかれて今に至ります。

あと学生時代にはバンドを組んで三田祭に出たりもしました。音楽は今でも続けていて担当はギターです。ちなみに好きなジャンルはヘヴィメタルなんですが、バンドでは日本の70年代歌謡風オリジナル曲をやっています。学生と音楽の話をするのは楽しいですし、ときにはバンドをやっている学生のライブに足を運ぶこともあります。そんな趣味を通じての交流は、これからも大切にしたいと思っています。

大学だからこそ「学び」の面白さを提供したい。

私の主な担当科目はフランス語です。経済学部では語学の学習に力を入れていて、一年生では第二外国語が週3コマ必修、ネイティヴの教員も多数います。これだけの環境がそろい、ただし語学教室とは違う、教員の専門分野と結びついた授業を受けられるのが大学の利点ですから、ぜひ4年間でフランス語を ――もちろんほかの言語でも―― モノにしてもらいたいですね。社会に出てからこんな贅沢はめったにできないでしょう。

それと同時に経済学部に入学する学生には「学ぶ」楽しさを味わってもらいたいたいと強く思っています。大学での講義を受験「勉強」の延長とは考えず、生徒から学生になるんだということを自覚してもらいたい。大学は大衆化したといわれますが、その本来の役割は今も「学び」の場であることのはずです。特に日吉には多様な分野の専門家が集っていて、入学時に配布される講義要綱の厚さには驚かれると思います。選択の幅は本当に広いのです。

そのなかで、とかく文学などの「教養」は、実社会に出たとき直接的に役立つものでないだけにおろそかにされがちです。けれど、一見無駄に見える教養こそが「人」や社会を支えるものだと私は思うのです。これからの長い人生、実学と要領の良さ、物質的な豊かさだけでは乗り越えられないような壁にぶちあたることが必ずあるはず。そんなときそれまで培ってきた教養が心の糧になるのだと思います。

経済学部にはそんな「学び」の場があります。サークルやバイトで人間関係を磨くことも大事ですが、自分が真に面白いと思える「学び」とぜひ出会ってもらいたいですね。私も、そんな出会いを数多く演出するために、自らの「学び」をきわめていこうとがんばっています。

(2008年10月22日取材)

※プロフィール・職位はインタビュー当時のものです。

プロフィール

1994年
慶應義塾大学文学部仏文科卒業
1997年
慶應義塾大学大学院文学研究科修士課程フランス文学修了
2004年
レンヌ第二大学博士課程 芸術、文学、コミュニケーション学科修了
2008年より現職

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