教員インタビュー

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専任講師 光田 達矢
研究領域 : ヨーロッパ社会文化史

最高レベルの学びを通じて、
世界で通用する自信が育まれる。

アウトサイダーの視点で、西洋史に一石を投じたい。

西洋史を学ぶ中で、「これまで書かれてきた歴史は、人間中心ではないか」という疑問がずっとありました。しかも、語られるのはエリートの話ばかり。例えば、経済は社会の一部分なのですから、民衆の視点でこそ、社会の実態が見えてくるはず。さらに踏み込んで考えると、アウトサイダー的な視点で見れば、まったく違う歴史が見えてくるのではないかと思ったのです。そしてある時「西洋史に一石を投じたい」と思い立ち、"馬"を基点に近代ヨーロッパの社会文化を読み直す研究を始めました。

なぜ、馬なのか――。実は近年まで、人間は馬に依存した生活を送っており、人間社会にとって馬は重要な役割を担う存在でした。この、よく考えてみると当たり前の事実が、歴史学研究では軽視されてきたのです。例えば"馬肉"という1つのテーマに絞って探るだけでも、いろいろなことが見えてきます。ヨーロッパでは、ローマ法王の「馬肉は野蛮な食べ物」という発言をきっかけに、馬肉を食べることは何世紀にもわたりタブー視されていました。ところが19世紀になると、突如、馬肉消費促進運動が起こります。その背景にあったのは、都市化の進行による急激な人口増加、そこに起因する食料問題です。そもそも馬は運搬用として大量に使われていたわけですから、利用できなくなったときに食料に利用すれば、大量にかつ安価に食料が手に入ります。そして、中産階級の人々が主導となり馬肉消費促進運動が始まったのですが、低所得者層に受け入れらないまま、馬を運搬用に使う時代は終わりに向かいました。この「19世紀ヨーロッパにおける馬肉消費促進運動」からは、食の有効活用や中産階級の戦略性など、現代社会にも通じる問題が垣間見えるのです。

少人数制の授業を活用すれば、得るものはさらに増える。

慶應大学経済学部では英語の授業を主に担当していますが、"最高レベルの知的体験のできる授業"を目指しています。イギリスに留学していたとき、慶應大学の学生は国際的には決してレベルは低くないことを強く感じました。ですから、経済学部の学生たちは、その高いポテンシャルを開花させ、海外の学生と対等に渡り合えるような思考力を身につけて欲しいのです。私の、犯罪の歴史の授業で、フランスの哲学者ミシェル・フーコーを英語で読ませているのも、そのためです。イギリスのケンブリッジ大学などでは、難解なフーコーを当然の知識として学んでいますから、同じように学んだという実績は国際的に一目置かれるキャリアにつながるでしょう。

私が教えている日吉キャンパスでは少人数制の授業が多く開講されていて、それは慶應大学経済学部の良いところの一つだと感じています。大教室では埋没しがちな個性も、小教室ならば発揮しやすい。それを入学間もない時期に実現できることは、その後の学生生活にプラスになると思うからです。私自身、慶應大学法学部時代、1、2年のときは少人数制のドイツ語やロシア語の授業を中心に取り、学生や先生方と密に触れ合うことで"学ぶ楽しさ"を知りました。そして「ヨーロッパの歴史をもっと知りたい」という学ぶ意欲が高まり、3年の時、当時在籍していた学部を離れ、経済学部のヨーロッパ史系のゼミを選んだのです。ですから学生たちには、得ることの多い少人数制の授業を、もっと活用して欲しいと思っています。

質問力を高めれば"面白い人間"に成長できるはず。

学生たちには、"問い"の大切さを、機会がある度に伝えています。子どもの頃、何に対しても「なぜ?」と問いかけていたように、自由な発想で、徹底的に問え、と。質問力が高まれば、人とのコミュニケーションがより活発になりますし、さらに、斬新な角度から質問をできるようになれば、印象に残る "面白い人間"になっていく。例えばそれは、就職活動の面接で質問をする際にも役立つと思うんですよ。

授業を通じて、学生同士が質問し合う環境を設けているのですが、思うように質問できず戸惑う学生もいます。高校までは「与えられたことを学ぶ」というスタンスだったわけですから、どうやって質問を見つければいいのか戸惑うのは、当然のこと。しかも、これまでの大学教育の現場では「能力のある人間は、自由に育つ」という考えが主流でしたから、質問を考える手立てが分からずに大学生活を悶々と過ごす人が少なくなかったと思います。

今、経済学部では若手の教員を中心に、質問力のような基礎的スキルがきちんと身に付く場をもっと設けようという動きが活発化しています。そもそも、経済学部の学生はモチベーションが高いですから、今の経済学部の環境を存分に活かせば、想像以上に成長できますよ。

(2009年5月28日取材)

※プロフィール・職位はインタビュー当時のものです。

プロフィール

2000年
慶應義塾大学法学部 卒業
2001年
慶應義塾大学大学院経済学研究科 (科目等履修生)修了
2002年
ケンブリッジ大学修士課程歴史学部 修了
2007年
ケンブリッジ大学博士課程歴史学部 修了
ケンブリッジ大学 クレア・カレッジ リサーチ・アソシエイト
2009年より現職

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