教員インタビュー

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准教授 廣瀬 康生
研究領域 : マクロ経済学、金融政策

マクロ経済モデルの更なる発展のため、
研究に取り組んでいきたい。

マクロ経済モデルはなぜ必要か。

私の研究の目的は、金融や財政政策の分析に必要なマクロ経済モデルを提供することです。特に、世界中の中央銀行や国際機関が近年盛んに開発・運用を行っている、動学的確率的一般均衡モデル(DSGEモデル:Dynamic Stochastic General Equilibrium Model)を研究対象としています。

政策当局が新たな政策を立案するとき、あるいは政策の変更を行うときに、その効果がわからないまま「試しにやってみよう」というのは許されません。現実の経済を利用して、実験を行うことはできません。そこで、現実の経済を抽象化した連立方程式体系であるマクロ経済モデルによって、シミュレーションを行うのです。政策分析のためのマクロ経済モデルには、現実の複雑な経済構造の理解を助けるべくモデルを単純化しつつも、実際の経済事象を十分に説明できることにくわえて、政策の波及効果を考えるうえで重要となる経済主体の期待の役割を明示的に取り込む必要があります。DSGEモデルは、こうした必要性に応えるべく発展してきました。私は、金融市場の不完全性や現実的な経済主体の期待形成といった点に着目し、DSGEモデルのさらなる発展に貢献する研究を慶應大学で進めていきたいと考えています。

政策の効果を明らかにできる。直感的に面白いと感じた。

私とマクロ経済モデルの出会いは、学生時代にさかのぼります。慶應大学でケインズ型のマクロ計量モデルを学んでいたとき、直感的に面白いと感じたのです。たとえば、一兆円の財政支出の増加がどのような効果をもたらすのか。その波及するメカニズムと定量的な効果を明らかにできることは非常に面白かった。周囲の友人たちは難しいといって敬遠していましたが、複雑な経済を簡潔に説明できることにとても興味を持ちました。ゼミも私一人だけという異例のカタチで、人がやりたがらないことに希少価値も感じていました。就職活動の際には、このまま大学院に進んで研究を続けたいという思いもありましたが、実際の政策の現場を見ることは必ず役に立つと考え、就職を選択したのです。

私が前職でDSGEモデルに出会ったときは、正直、「こんな理論ガチガチのモデルが現実の政策分析に使えるはずがない」と思ったものです。そのとき、職場の先輩から統計学者George Boxの「All models are wrong, but some are useful.」という言葉を教えていただきました。完璧なモデルは存在しないが、その限界を把握しつつ利用することで、社会の役に立つものもある、という意味です。実際、DSGEモデルは、世界中で政策論議のベンチマークとして、頻繁に活用されるようになっています。

熱心な学生たちと学べる充実感がある。

日本の大学生はあまり勉強しないという話を耳にすることがありますが、私の授業やゼミを履修している学生を見るかぎり、慶應の学生は非常によく勉強しているという印象を持っています。ゼミの学生は、相当な時間をかけてプレゼンの準備をしているのがわかりますし、大学院レベルのマクロ経済学を理解するために、自主的に数学の勉強会を開いています。また、教室の移動の際に呼び止められて、質問を受けることも珍しいことではありません。勉強しないという一般論とは逆で、とても感心させられます。こうした熱心な学生とともに学べることは、私に充実した時間を与えてくれます。

学生たちには、ゼミを大切にしてほしいですね。同じ学問テーマに興味を持った人が集まる場というのは、ほとんどの人生において、大学時代のゼミしかないでしょう。そこは、議論を重ね、お互いに切磋琢磨できる場なのです。慶應大学の学生たちには、ゼミをそんな意義ある時間として活用してほしいと考えています。

(2010年7月15日取材)

※プロフィール・職位はインタビュー当時のものです。

プロフィール

2000年
慶應義塾大学総合政策学部卒業、日本銀行入行
2007年
ジョンズ・ホプキンス大学Ph.D.(Economics) 取得
2010年
慶應義塾大学経済学部准教授

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