教員インタビュー

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教授 杉浦 章介
研究領域 : 経済地理、都市・地域経済論、アメリカ研究

「トランスナショナルな組織としての大学」に相応しい統治とは?

私は、1983年4月に経済学部助手として就任し、2013年3月末をもって慶應義塾大学を定年退職いたします。この間、都合30年間の専任期間でありました。

これらの歳月の間には、日本をはじめとする世界の情勢も一変するとともに、自身の専門とする学問領域もまた、大きく変容して昔日の面影すらなくなっているのを目の当たりにしています。そうした中でも特に思い起こされる事柄には、この30年の間に大学や学校の行政に深く関わってきたということがあります。

学部の運営委員などの仕事は別にしても、1995年から1999年までの4年間は、慶應義塾ニューヨーク学院の学院長としてアメリカに在住しましたし、その後、2005年から2011年までの3期6年間、大学院社会学研究科委員長を務めました。併せて10年間ですから、在任期間の3分の1は何らかの行政職務に就いていたことになります。

前者のニューヨーク学院長時代には、第2代学院長として、学院の所属するニューヨーク州私立学校連盟の認証評価を学院として初めて受けたことが思い出されます。また、誕生間もない学院の教育においては、アメリカに存在する寄宿制度をもった学校として、塾内においても独自の教育を行いたいと考えておりました。その思いは今も変わることはありません。

後者の社会学研究科委員長の6年間は、ちょうど慶應義塾創立150年記念事業の期間とも重なり、各種の委員会活動もとりわけ活発で、キャンパスを異にする学部や研究科の代表の方々とも親しくお話しする機会を得ました。また、この期間には、文部科学省の肝いりで始まったCOEならびにGCOE(グローバルCOE)の2つのプロジェクトの受け皿として、研究科独自の人事任用規定の整備などを行いましたが、これがきっかけとなって大学院が人事権や予算権を拡充し更に独立性を高めるようになればと願っております。

このような貴重な経験をもとに、現在、新たなテーマについて研究に勤しんでおります。グローバル化の進展によって拡大し複雑化してきた国際分業システムの動態分析が経済地理学においても積み重ねられていますが、最近、直接投資による現地法人の設立や、現地企業の買収や合併などによる分業構造の深化と並んで、成長の著しい現地企業との対等な契約に基づく分業や系列化の重要性が認識されるようになってきています。直接投資に伴うリスク・マネジメント上からも十分説得的でありますし、また、ベンチャー企業などの海外進出にとってもコストの面で魅力的といえます。しかし、国境を越えるような契約や、そうした契約に基づくサプライチェーンの拡大には、それなりのリスクが伴っています。このようなトランスナショナルで多様なリスクに対処できるようなガバナンス(統治)はいかにあるべきか、あるいは、ま た、自国の国内法の効力の及ばない空間(外国やサイバー空間)での統治の在り方について、目下、研究を行っております。

そして、この研究は、巡り巡って自身への鋭い問いかけとなってもいます。大学とは、本来、国境を越えるアカデミックな学会活動によって成り立つようなトランスナショナルな組織であるにも拘らず、トランスナショナルなガバナンスという点では、極めて未熟であるとしか言えないのは何故か。

トランスナショナル・ガバナンスの研究はいまだ開発途上にあるといえますが、ただ一つ確かなことは、「研究に国境はない、研究に定年はない」ということであります。

(2012年11月取材)

※プロフィール・職位は取材当時のものです。

プロフィール

1971年
慶應義塾大学経済学部卒業
1975年
慶應義塾大学修士課程社会学研究科修了
1983年
ペンシルバニア州立大学博士課程地理学部修了、Ph.D.(地理学)
1983年
慶應義塾大学経済学部助手
1985年
慶應義塾大学博士課程社会学研究科単位取得退学
1995〜99年
慶應義塾ニューヨーク学院長
2005〜2011年
慶應義塾大学大学院社会学研究科委員長

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