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教授 八木 輝明
研究領域 : 近・現代ドイツ文学

二度の義塾創立記念の年を経験して

多くの退職した方々が研究、教育のことに触れているので、以下に私は在職期間中に経験した印象深いエピソード、思い出を述べてみたい。たくさんの感慨があるが、なかでも在職中二度の義塾創立記念を体験できたのは貴重なことだった。ただ創立125年記念にあたる1983年は、2年間のドイツ留学を終えて、義塾の仕事にもどったときでもあり、記憶にはあまり残っていない。それに対し創立150年記念にあたる2008年のことは記憶にあざやかだ。この年を中心に盛大な記念行事、企画があいつぎ、義塾のさまざまなところで多くの校舎、病棟が新築された。

日吉でも独立館、協生館の建設とともに、広大な陸上競技場が新設され、11月8日に記念式典が行われた。室内会議場参加者を含め一万人以上が参加、参集した式典は、国内外の大学学長が招待され、天皇皇后両陛下の御親臨を仰いで挙行された。当日は冷たい小雨が降り、競技場に参列した八千人あまりの人びとは貸与された薄手のレインコートを着用していた。

安西塾長の式辞のあと、天皇陛下のおことばを賜った。スピーチは福澤諭吉が義塾を創設した1858年から明治維新の激動の時代を詳述することからはじまり、今上天皇の教育参与だった小泉信三に触れ、義塾の現在にいたる歴史的な内容が主だった。

それまで私は一般参賀や祝賀行事にあたってのスピーチなど、ほとんどテレビを通じて陛下のおことばを拝聴するだけだった。そのさいの内容は、やはり行事にそくした一定の形式、決まった枠内でのおことばだった。

しかしこの日の式典での陛下のおことば、とりわけ明治維新の時代とその群像を語るさいには迫力があった。あらかじめ用意された玉稿の内容をたどるというより、福澤諭吉と維新の激しく情熱的な時代を語る陛下のおことばには熱がこもり、その想いが直接伝わってきた。この日の小雨まじりの寒さを忘れさせるような熱い想いがそこには込められていて、日本の象徴としての近寄りがたい陛下の人間的なお人柄がいっぺんに身近になった気がした。このあとの多くの学長のスピーチがかすんでよく聞こえなくなるくらい私は感動していた。

あの式典から5年たって定年退職を迎えることになったが、陛下のおことばであざやかに蘇った明治維新と福澤諭吉の精神を深くかみしめ、長いあいだ学び教えた義塾に感謝しつつ退任のメッセージとしたい。

(2012年11月取材)

※プロフィール・職位は取材当時のものです。

プロフィール

1971年
立教大学文学部卒業
1974年
立教大学大学院文学研究科修士課程修了
1974年
慶應義塾大学経済学部助手
1977年
慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学
1981年
慶應義塾大学経済学部助教授
1994年
慶應義塾大学経済学部教授

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