日本における企業評価手法の変化とその意義

米田章彦

要約

本論文は、日本における企業評価手法の変化とその意義について述べるものである。

アメリカにおいて、企業経営者は絶えずM&Aなどを用いてリストラクチャリングを行い、経営資源を効率的に利用するよう市場に要請されてきた。競争力のある事業をコアにシナジー効果の狙える分野に事業投資を行う一方、競争力の衰退してくる事業から撤退して競争優位を維持・強化できるように、事業 構築(リストラクチャリング)を行うのである。現在日本においても本格的な経済構造の改革が進みつつあり、この動きに企業財務の実務面から影響を与えているのがフリーキャッシュ・フロー(FCF:Free Cash Flow)、EVA(Ecomomic Value Added)などのキャッシュフローを重視した企業評価基準である。

FCFは、営業キャッシュフロー、つまり販売などを行って得た収入から、それに伴って発生する経費を差し引き、更に事業に必要な投資額を差し引いた残りの部分をいう。企業が資本コストを上回る収益率が期待される事業すべてに必要な投資を行うことによって、将来の営業キャッシュフローが極大化し、その営業キャッシュフローから次に必要な投資を差し引いたFCFの発生が繰り返されて企業価値をいっそう高めることになる。したがって、FCFはこれ以上高い収益率が期待される事業がなくなった時には、負債の返済や配当・自社株式の償却に当てることによって資本の提供者に還元されることになる。ゆえに、将来にわたって生み出されるFCFの流列を資本コストを考慮した割引率によって現在価値にし、それらの合計が企業価値となる。これをディスカウンティッド・キャッシュフロー法(Discounted Cash Flow MethodDCF法)という。

EVAは、企業の税引後営業利益から資本コスト額を差し引いたものと定義される。会計上の利益ではなく、資本コストを支払った上での利益を経済付加価値と定義して指標として用いたものである。企業価値を推定するには、DCF法と同様に将来にわたって生み出されるEVAをある割引率で現在価値に換算して合計をする。これらの手法は資本コストを意識して個々の企業、あるいは事業の評価を適切に行えることに利点がある。

従来の財務諸表上の利益やROEといった指標は、資本コスト、とくに株主資本コストという概念がない。日本の経営も株主資本コストを意識して経営してこなかった。株式によって調達された資本はタダであるかのように効率の悪いプロジェクトに投資を行ってきたのである。

しかしながら、最近になってそのような経営者の行動は市場が否定的に反応するようになった。この一因は企業評価手法がより洗練されたことにある。