文字処理有効視野評価ソフトβ版

2001年1月29日バージョン

中野泰志(慶應義塾大学)

email : nakanoy@hc.cc.keio.ac.jp


<有効視野とは?>

・視野とは?

 視力(visual acuity)は細かいものを見分けられる能力のことである。つまり、どれだけ小さいものを発見できるか(最小視認閾)、どれだけ狭い間隔まで分離して見ることができるか(最小分離閾)、どれだけ小さな文字や図形を弁別できるか(最小可読閾)、どれだけ細かな直線や輪郭のずれを検知できるか(副尺視力)を示す能力です。

 視力は私たちの見える範囲の中で最も見分ける力(感度)の高い部分の能力を示すものであり、通常は網膜の中で最も感度の高い中心窩の感度を示すものと考えられます。視力が最も感度の高い1点の機能を示すのに対して、視野(visual field)とは視覚の感度の分布です。見える範囲全体に対しての(広義の)視力の分布と考えても構いません。つまり、視力検査では視線を向けているところに視標が提示され、どれだけ見分けられるかを測定しますが、視野検査においては視線を向けている場所以外に意図的に提示された視標がどれだけ見分けられるか(感度)を測定し、その分布を明らかにします。視力が同じでもこの分布の仕方(視野)が異なっていると、作業を達成する際の難易度が異なってきます。例えば視力は良好なのに歩行が困難になるのは、視野の周辺に感度低下があるからだと考えられるわけです。

・視野評価の意義

 簡単に言うと、視野とは網膜の感度の分布を示したものです。すなわち、どの場所でどれだけ細かいものが確認できるか、その分布を示したものです。当然、視標の大きさや明るさ等によって分布は変化します。しかし、通常、視野のことが話題になる場合、その広さが問題にされることが多いようです。これは主として視野障害の程度を健眼者と比較するために行われる判断であり、決して、それより広い部分がまったく何も感じないことを示しているわけではありませんし、その範囲内なら健眼者と同じように見えることを示しているわけでもありません。視野を感度分布だと考えると、教育・福祉サービスの内容に結びつけることが可能です。例えば、街灯に相当するような大きくて明るい光を感じることができる範囲が分かれば歩行指導に活用できるはずです。また、1cmの大きさの文字が分かる範囲が分かっていれば、文字教材の提示の仕方に反映できます。

・読書課題遂行における文字処理有効視野評価の意義

 ロービジョンの抱えている読書における一番の課題は文字の大きさです。文字を大きくすると一つ一つの文字は読みやすくなる反面、単語や文全体が捉えにくくなります。しかし、視力が低い場合、文字を小さくすると同定できなくなります。この二つのジレンマにどこで折り合いをつけて最も適した文字の大きさを選択するかが重要です。その決定の科学的根拠として視野検査の結果が重要な意味を持つわけですが、通常の視野検査では文字が読める範囲を直接特定することはできません。教育やリハビリテーションの現場で視野検査の結果があまり重視されていなかったのは、検査が困難というだけでなく、検査結果を直接ケースの処遇に結びつけることができなかったためだと思われます。つまり、読書と直接関係のある文字を視標とした有効視野の評価が重要なのです。しかし、読書の際の文字処理に必要な有効視野を評価するための客観的なシステムは実験用のもの(池田, 1982;斎田ら, 1994)や英語圏で実用化が検討されているもの(Mackebenら, 1994)を除いては確立されていません。

・静的文字処理有効視野とは?

 ここで扱う視野は厳密に言うと、a) 平面視野測定法で、b) 量的視野を測定しており、c) 視標を移動させない定点測定・静的視野測定で、d) 輝度一定の文字視標が視認できる文字サイズを感度と見なす、e) 固視点あり、f) 固視点での作業負荷なしの条件で測定するものです。簡単に言うと、文字を視認するために有効な視野(functional visual field)であり、その意味を明確にするためにここでは静的文字処理有効視野もしくは文字処理有効視野と呼ぶことにします。

 以上のような問題意識からロービジョンの人について「どの程度の大きさの文字がどの部位で視認可能か」(文字処理有効視野)を評価するための方法を検討し「ロービジョン用静的文字処理有効視野評価システム」を試作しました。この方法であれば、読書に利用できる機能的な視野を直接的に知ることが可能である。なお、本ソフトは、1993年10月に最初のバージョンを試作し、その後、弱視学級、盲学校、リハ施設等での実践を経ながらバージョンアップを重ねてきました。

<有効視野評価ソフトとは?>

・主な特徴

 本ソフトには以下の特徴があります。

1) 学校や福祉施設等で簡便に利用できるように汎用のコンピュータシステムを用いるように設計しました。1993年当時はMS-DOSが主流のOSであり、視覚障害に関する教育・リハの分野ではNEC製のPC98シリーズが普及していました。そのため、PC98のMS-DOSをターゲットマシーンとして開発を行いました。しかし、現在ではDOS/V仕様のマシンで動作するMS-Windowsが主流になったため、2000年からWin環境で再開発しました。その結果、ほとんどすべてのパソコンで動作させることができるようになりました。

2) 通常の視野検査は眼科で実施するものであり、学校や福祉施設の職員が利用することはできませんでした。これに対して本ソフトは操作が簡単であり、短時間の研修を受けるだけで容易に利用することができます。

3) 固視点を凝視することと画面に一瞬表示されるひらがな文字等を読み上げることさえできれば本システムでの評価が可能です。したがって、低年齢や他の障害を併せもった子どもにも適用できます。

・本ソフトを動作させるために必要なパソコン・システム

 本ソフトはマイクロソフト社のウインドウズ95以降のOSで動作するように設計されています。マックOS上のウインドウズ・エミュレーションでも動作が確認されています。ただし、視標を200ミリ秒以下のスピードで画面に表示させるため、描画速度の遅いマシンでは利用できません(描画スピードの評価機能があり、適切な処理速度があるかどうかは自動的にチェックできます)。なお、本ソフトはVisua・Basic ver.6で独自に作成したものです。

・評価方法

 本ソフトは、被評価者が凝視点を注視している時にモニタ画面の任意の位置に任意の大きさのひらがな文字もしくは記号(視標)を眼球運動が起こらない程度のごく短い時間(200ミリ秒以内)提示し、その視標が視認できるかどうかを判定します。視認できた場合は、視標の大きさを小さく、視認できなかった場合は大きくし(上下法)、ぎりぎり視認できる大きさ(認知閾)を求めるという仕組みになっています。なお、正誤の判断等はプログラムが自動的に行うようになっています。評価者は、被評価者が凝視点を固視していることを確認しながら、評価を進行し、被評価者の反応をキーボードから入力するだけです。

<プログラムのダウンロード>

 「プログラム本体のみ(vfield.exe)」と「DLL付きのセットアッププログラム(vfield_demo.exe)」の2種類があります。本体のみはサイズが小さく電話回線による通信でもダウンロード可能なサイズです。しかし、パソコンによっては正常に動作しない場合があります。これは、プログラムを動作させるために必要なDLLがないためです。そのような場合には、「DLL付きのセットアッププログラム」をダウンロードする必要があります。ただし、このプログラムは6MBとサイズが大きいため、専用線を利用した方がよいと思います。

 このプログラムは、ウインドウズ用に開発したものです。ウインドウズ95、98、2000、NT、MEで動作します。マッキントッシュで動作させるためには、ソフトウインドウズやヴァーチャルPCなどのウインドウズエミュレーションソフトが必要になります。

  1. 本体のみ(VField.exe)
  2. DLLを含んだセットアッププログラム(自動解凍)←6MBあります!
  3. マニュアル(pdf)


 本ソフトは、平成11〜12年度・文部省科学研究費補助金・奨励研究(A)「高齢者や障害者の読書環境を整備するための有効視野評価システムの開発」(研究代表者:中野泰志、課題番号11710153)の支援により開発したものです。

 本ソフトは、現在、研究途上であるため、開発者による実習以外での使用を禁じます。また、再配布やホームページの紹介、リンク等を一切を禁じます。