教員インタビュー

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准教授 津田 眞弓
研究領域 : 文学(国語国文)

「古い」だけではない、
現代に通じる古典の価値を伝えたい。

それは、当時のテレビドラマであり、マンガだった。

近世後期(19世紀前半)の小説。中でも、江戸で作られていた「草双紙」(くさぞうし)という浮世絵と兄弟のような関係にある絵本の研究に携わっています。

草双紙では挿絵と文章が同じページに混在し、双方が響き合って豊かな世界を作っています。絵巻の流れを汲むこのジャンル、ご覧になればきっと、マンガの祖先だとお感じになることでしょう。17世紀の半ばから200年以上も人々に愛されたのですが、特に19世紀に入ってから、物語として、また極彩色の錦絵(にしきえ)を用いた表紙をつけるなどビジュアルの面で飛躍的に発展しました。木版印刷の技術も向上し、美術品としても興味深いものです。一方、市川団十郎など人気歌舞伎役者の似顔絵で登場人物を描いたりもしたので、現代日本におけるテレビドラマのような存在でもあったのではないでしょうか。

娯楽的かつ大衆的なジャンルですが、身分の上下に関わらず、多くの人々を熱中させていました。出版市場の商品として生み出されていく大量の草双紙は、まさに時代を映した鏡です。

同時に、草双紙は古典文学の伝統も踏まえていて、日本文化のエッセンスを感じることができます。和洋を問わず、面白いものを摂取して豊かさを生み出すバイタリティが日本にはありました。そんな柔軟な日本の価値観について考察してみるのも面白いものです。

幸いなことに、数多くの文献が現存しています。はるかに時代を超え、当時の人々が楽しんでいたであろうものと同じものを目にすることができるのです。しかも、慶應義塾大学には貴重な文献が多数存在しています。そうした資料を通じて、現代に通じるさまざまなテーマに取り組んでいきたいと考えています。

現代が注目すべき、自由な発想と先進性があった。

草双紙というメディアが飛躍的に発展したプロセスを見ると、白黒からカラーへと移っていくテレビ番組の変遷や、ビジュアルの面でのインターネットの進化とオーバーラップする部分があって、とても興味深く思っています。

印刷物としても、例えば、板に絵や字を彫る木版印刷は、紙面を自由に使うことができるという点では、活字印刷を超えて、むしろ今のパソコンの(※1)DTPに近いのです。

私たちの周囲を見渡すと、未だ一つ一つ活字を組んで作っていた活字印刷の呪縛から解放されていないところがあります。技術が進化し、もっと自由な発想で誌面の割付が行えるにもかかわらず、です。

一方、江戸時代の草双紙では、文字を大胆に配置することがありました。雨が降るカタチに、あるいは明かりの筋に模して、また時に富士山の姿に――。文字も絵の中に取り込んで、とても自由な発想で楽しんでいたのです。

このほか、演劇・絵画・広告・商品との融合など、現代でいうメディアミックスも盛んに行われていましたし、今に通じることはいろいろあります。ぜひ、今目の前にあるものだけが新しいのではないということを、皆さんに伝えていきたいですね。200年前の絵本から、現在や未来に有効なヒントを見出すことができるかもしれません。

学生だけでなく、私も刺激的な環境を楽しんでいる。

2008年の4月から現職に就きましたが、大所帯の経済学部はその中だけでも多種多様な研究者がいて、そうした方々に囲まれて、日ごろ見たり聞いたりする情報の幅がぐんと広くなりました。それに日吉キャンパスでも日々さまざまなイベントや講演会が開催されています。私もあちこち足を運び、思いがけない気づきにずいぶん触発されました。学問的な探究心や大学生活の充実を求めようとすれば、慶應義塾大学は非常に刺激的な環境だと実感しているところです。

また江戸文学に携わっていることから外国語の先生からお誘いをいただき、一緒に浅草見物などへ出かけることがあります。特に外国人の先生から思いもよらぬ質問をされ、改めて日本や江戸を考える良い機会になっています。

私自身、慶應義塾大学の経済学部での日々を楽しんでいるといったところでしょうか。

  • ※1 デスク・トップ・パブリッシング。パソコンを使用して、出版のために行うさまざまな作業のこと。原稿の作成、デザイン、レイアウト、版下作成など印刷までの一連の作業を意味する。

(2008年10月28日取材)

※プロフィール・職位はインタビュー当時のものです。

プロフィール

1987年
日本女子大学 文学部国文学科卒業
1995年
日本女子大学大学院 文学研究科日本文学専攻 博士課程前期修了
2001年
日本女子大学大学院 文学研究科日本文学専攻 博士課程後期修了
2008年4月より現職

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