教員インタビュー

トップページ > 教員インタビュー > 服部 哲弥

教授 服部 哲弥
研究領域 : 確率論、数理物理学

"縁"に気付くことこそが、個性。

思索に耽る湯川秀樹に憧れて、物理学を志した。

20世紀の理論物理学における重要な理論の一つである「くりこみ群」の、確率論の立場からの研究が主な研究テーマです。「くりこみ群」とは、精度のスケール変換に対する元の系の応答を適当なパラメータ空間上で記述した力学系であり、その固定点近辺の振る舞いが、系の漸近的性質を定めるものを言います。

ここ2、3年は少しテーマを変えて、インターネットに見られる人気度や売り上げの簡単な仕組みのランキングを研究して、その動きから全体の売上を推測できる法則を発見することができました。確率論は数理ファイナンスなどで最近も注目されているように、経済と密接な関わりがあります。慶應大学経済学部というフィールドを活かして"研究"と"教えること"の相乗効果を生み出せたらと思っています。

私が物理学に興味を持ったのは、4、5歳のときに読んだ湯川秀樹の伝記がきっかけでした。友達と鬼ごっこしていたときに一人で思索に耽り、それが後日、素粒子の発見につながるというエピソードがあるのですが、「一人で思索に耽った」というシーンが印象深く心に残り、同じ道に進みたいと思ったのです。小学生になった頃には、おぼろげながらも「素粒子論を研究したい」と思っていました。

とはいえ、子どもの頃の"憧れ"を叶えるべく、すんなり研究者になったわけではありません。大学院に進んだのも「最先端の研究がしたかった」というのが最大の理由でした。しかも当時は物理学の博士の数が多かったため、教授からは就職を進められたほどです。けれど、好きなことに夢中になり、突き進んでゆくうちに研究者になる道が開けたのです。

専門以外の知識は、幅広いほど有利になる。

「慶應の経済」と言えば日本の経済学部の中心の一つ、というイメージが強くありました。実際、教える立場となって学生さんを見ると、いい意味でその自覚を持っているかたが多いように感じます。私が教えているのは数学なので、経済学部の学生さんからすれば将来の専門分野と直結する学問ではないかもしれません。けれど、知っていたほうが有利になるのは間違いないのです。

1、2年生が学ぶ日吉キャンパスでは、数学に限らず、経済学以外の分野のさまざまな授業が開講されます。社会人になって経済を専門とする分野に進んだとしても、専門分野以外のことを話題にすることは多々あるはずです。幅広い知識があればどんな話題でも出遅れずについていける、つまり多様に学んだことはあらゆるビジネスシーンで生かされます。 考えようによっては、幅広いジャンルを学べるということは、得意不得意を見極めるチャンスでもあります。学ぶ前から得意不得意を決め付けるのではなく、自分を知るチャンスと思って授業を活用してみてはどうでしょう。

何事にも"縁"がある。そして、その縁に気づくのが個性だ。

「これが世間で言う一番の道だから、そこに向かって頑張る」という生き方は、実現すればたいへん幸せだと思います。けれど、目指す生き方が実現しなかったとしても、別の道はあるということを覚えていてほしいと思います。賢い経済学部の学生さんたちを見ていると、目指したものが得られなかったときに、次のだいじな目標を見出すことが鍵になるのでは、と感じます。

目標が見つからないと悩む学生さんもいらっしゃるかもしれませんが、何事にも"縁"というものがあると私は思っています。実を言うと私自身、やっていることは少しずつ変わってきているんですよ。やりたいと意識していなくても、縁で始まることってあるのです。今の研究にしても、自著の売上ランキングが落ちていくのをきっかけに研究のテーマになりうるのでは、と気がついた。縁があったのです。また、これまでいろいろな研究者と共同研究してきましたが、それらの方々との出会いはあとから考えると偶然としか思えないものでした。人との出会いも大切な縁です。

何が縁になるかは人それぞれですし、何を縁だと気づくかも、人それぞれ。その"何に気づくか"こそ、個性です。学生のみなさんには、他人とは違うところを個性と捉え、大事にして欲しいと思っています。

(2009年5月28日取材)

※プロフィール・職位はインタビュー当時のものです。

プロフィール

1980年
東京大学理学部物理学科卒業
1982年
東京大学大学院理学系研究科修士課程(物理学専攻)修了
1985年
東京大学大学院理学系研究科博士課程(物理学専攻)修了(理学博士)
学習院大学理学部助手(物理学科)
1989年
宇都宮大学工学部助教授(情報工学科)
1996年
立教大学理学部助教授(数学科)
1999年
名古屋大学大学院多元数理科学研究科助教授
2004年
東北大学大学院理学研究科教授(数学専攻)
2009年より現職

ページトップに戻る