准教授 穂刈 享
研究領域 : ゲーム理論(協力ゲーム)、数理経済学
私の専門は「協力ゲーム」です。協力ゲームでは、複数のプレイヤーが協力することにより得られる利益をどのように配分するかという問題を考えるのですが、その際に、配分ルールが満たすことが望ましい諸性質をそれぞれ「公理」として定式化し、様々な公理の論理的な関係や両立可能性について調べるのがいわゆる「協力ゲームの公理的分析」です。
そうした点では、社会的意思決定のルールについての民主主義的な幾つかの要請の論理的帰結として独裁者が存在することになってしまうことを証明した「アローの定理」で有名な、「社会的選択の理論」の分野と内容的にも方法論的にも非常に近いことを研究していることになります。
ゲーム理論は一応、「非協力ゲーム」と「協力ゲーム」からなるということになっているのですが、一般的にゲーム理論といえば非協力ゲームのことを指し、協力ゲームの方は専門家も少なく非常にマイナーな分野なのですが、いくつもの重要な問題が未解決のまま残されていてとてもやりがいのある分野です。
ここ数年は小手先だけの論文ばかり書いていて、研究しているふりをしていただけのように思うのですが、この大学に移ってから、忘れかけていた研究意欲がふつふつと湧いて来て、何年間もほったらかしになっていた問題のいくつかに再び取り組み始めました。月曜日の数理経済学のセミナーに時々参加させてもらっていることと大学院の演習で協力ゲームの授業をしていることが刺激になっているのかと思います。せっかくいい環境にいるので、小手先のテクニックでごまかして形だけ何とか整えたような研究ではなくて、数年かけてやっと答えが見えてくるような重要な未解決問題にじっくり取り組みたいと思っています。
研究以外では、数年前に出張先の本屋でたまたま見つけたRoger Penrose の"The Road to Reality"という本がきっかけで、物理学関係の本をよく読んでいます。ゲーム理論やミクロ経済学を専門にして数学を使って論文を書いたり講義をしたりしていると自分は数学のことをよく知っていると勘違いしてしまいがちなのですが、こうした物理学の本などでは「共変微分」やら「Lie微分」といった聞いたこともない数学がでてきて、よくわからなければ良さそうなテキストを探して読んだりして、結構楽しんでいます。
大学院レベルのミクロ経済学では「微分位相幾何学」を使うことがあるので、そのさわりぐらいは勉強したことがあるのですが、ある本に「アインシュタインの一般相対性理論では微分位相幾何学を使っている」と書いてあるのを読んで、それだったら一般相対性理論を理解するための下準備はできているのかもしれないと思い、アインシュタインの論文や重力理論の教科書を読んでみたところ、使われているのは私が知っているものとはレベルが違うものであることが判明し、また一から勉強し直しています。最近ではいわゆる「テンソル計算」にも慣れてきて、ディラックの『一般相対性理論』の最初のほうならなんとか理解できるようになりました。
学部の授業は今はゼミだけで、秋から日吉のミクロ経済学を教えることになっています。中級レベル以上のゲーム理論やミクロ経済学では数学を使うことが多いので、それだけで勉強するのを断念してしまう人も多いのですが、重要なのは「難しそうな数学を使ってごちゃごちゃやっているけど、本質的にはこういうことをやっているんだ」ということを理解することだと思います。この手の説明はわりと得意なほうなので、ゼミや他の授業の際に「ここのところは数学的に難しそうだけども面白そうだからわかりやすく説明してほしい」とか何とか声をかけていただければ、お役に立てるのではないかと思います。
(2009年5月28日取材)
※プロフィール・職位はインタビュー当時のものです。
京都大学経済学部卒
ロチェスター大学 Ph.D
Copyright(C) 1996, 2008-, Faculty of Economics, Graduate School of Economics, Keio University