教員インタビュー

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教授 グレーヴァ 香子
研究領域 : 非協力ゲーム理論およびミクロ経済学

これまで見守り続けてくれた皆さんに、義塾賞受賞を感謝したい。

既存のゲーム理論にないものを。

ゲーム理論というテーマと長年、対峙してきました。そして、これまで誰もやったことのない研究に携わることができました。共同研究ではありますが、全く新しいものに取り組むことができたことは、非常に有意義な時間だったと思います。今までのゲーム理論に新たな側面を加えたのです。それは、ゲームを途中で止めるという選択肢を与えたことです。経済学者として、途中で止められないのはおかしいと考えていたのです。

また、ゲーム理論では、評判という目に見えないものを扱うことができます。人々がある人に対して予想を行うことと言えばいいでしょうか。ゲーム理論から見た評判の構造を、理論を作って予測し、実証研究者の協力によって実証したいと考えたのです。特に、スキャンダルや波及効果について、探求しました。今後も、このように精密な理論を作るだけでなく、理論が予想したことが現実に起こっているかを、実証していく研究も続けます。

論文が出たばかりなのですが、先日、自然科学の分野の研究者たちと話をする機会があり、自然界でも私の理論と同じような現象、出入りがあると興味を示していただきました。これはじつは重要なテーマの一つで、今後、相手との関係を止める、知らない相手と新たな関係に入るという出入りを新機軸に新しいゲーム理論を作っていきたいと考えています。

学生の時にゲーム理論に出会い、魅了された。

慶應義塾大学の2年生のとき、ミクロ経済学に出会いました。合理的で明快で、素晴らしい理論だと思ったのです。自分の学問だと直感しました。理論にはストーリーがあり、目的を明快にして、数理的、論理的に追求すれば誰もが同じ結論を導き出すことができる。そんなところが非常に魅力的でした。権威主義的でないところも、私には合っていたのではないでしょうか。2年、3年と勉強を続ける中で、将来は研究者として、ミクロ経済学とそれに関連した学問、中でもゲーム理論に取り組むことを決心していったように記憶しています。後に、スタンフォード大学で最先端のゲーム理論を学び、ミクロ経済学との融合を研究対象とすることができたのです。

結婚し、子育てしながら、マイペースで研究を続けてきましたが、周囲の皆さんは黙って見守ってくれました。アメリカの大学なら、論文を発表しなければクビになることも珍しくありません。そういう意味でも慶應義塾大学が見守り続けてくれたおかげで、今年ようやく、納得できる論文を一流の学術誌に発表するという成果を生み出すことができました。遅くなりましたが、こうして義塾賞もいただき、評価されたことを、これまで見守り続けていただいた方々に感謝したいと思います。

考えようとすることを怠けないでほしい。

2002年から2004年まで、ノルウェーの大学で教える機会がありました。それまでは、慶應義塾大学の学生たちを、自分の後輩でもあるのですが、それほど高く評価したことはなかった。ところが、ノルウェーの大学で教えて、帰国して再び学生たちと向き合うと、とても優秀であることに気づいたのです。これは鍛えてあげないといけない。本当の経済学を教えようと、改めて気持ちを引き締めました。 慶應義塾大学の学生たちは、考える瞬発力が素晴らしい。その場ですぐに、的確に考える能力がある。それを活かしていくには、どうすればいいのか。教育者としては大きなテーマですね。彼らに考えようとすることを怠けないでもらいたい。そう導くのも私たちの役割ではないでしょうか。教員の方の中には、私の姿勢がノルウェー以前と変わったと言ってくれる方もいました。

多様性はいいことだと考えています。多様なことの中から、自分を大切にすることに気づくからです。研究を通じて、教育を通じて、多様であることの価値を、学生たちに伝えていきたいと考えています。厳しく指導していきますが、学生たちには、やさしく「いっしょにやりましょう」と声をかけています。

(2009年12月17日取材)

※プロフィール・職位はインタビュー当時のものです。

プロフィール

1989年
慶應義塾大学経済学部助手
1995年
慶應義塾大学助教授
2007年
慶應義塾大学教授

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