教員インタビュー

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専任講師 丸田 千花子
研究領域 : スペイン現代文学

スペイン語をきっかけに、学生たちには
興味や好奇心の翼を広げてほしい。

小説に描かれた人々の生活から政治体制の激変を読み解く。

30歳をすぎたころ、もう一度勉強し直したいと考え、本当に自分の好きなことは何かと自問自答し、スペイン文学、特にポスト・プランコ(1975年フランコ体制終焉後)の小説に向き合いました。これは小学生時代の数年間をスペインで生活していたことが大きかったです。フランコ独裁政権が終わり、民主化の道を歩み始めたころです。民主国家への転換は、スペイン人にとっては自由が手に入るという大きな出来事でしたが、同時にスペイン社会は、西欧現代社会が抱えるような社会問題にも直面することになりました。一つの政治体制の崩壊が実に社会に大きな変革をもたらしたのを、当時、目にしたのです。その後、スペインでは民主化によって社会の価値観や歴史観が大きく変わり、国も経済発展を遂げて豊かになりました。そしてかつて労働力供給国であったスペインはEU加盟後の現在、中南米、東欧などから労働力を受け入れる国に発展しました。ポスト・フランコの小説はそうしたスペイン社会の変化を、人々の生活というミクロの視点から描き続けてきたのです。作家たちはなぜそのテーマを取り上げたのか、何を訴えたいのか。こうした疑問を明らかにすることで、私は、スペイン社会で何が起きたのか、EUという壮大な実験は何をもたらしたのか、ひいては世界はどうなっていくのかを理解し、学ぶことができると考えています。私の専門は、こうしたフランコ体制後の社会変革を、小説や映画を通して読み解くことです。

学生たちが将来国際的に活躍するために。

私は、留学や家族の仕事の関係で、アメリカでも生活しました。その経験から、アメリカにおいて、ヒスパニック系の存在が年々大きくなっていくのを実感しました。ヒスパニック系の人々は、現在、アフリカ系アメリカ人に代わる単純労働力として、アメリカ西部・南部ばかりでなく、中西部や東部の大都市でも大きな勢力を形成しつつあります。実際、アメリカ進出の日系企業においても、スペイン語を話す人々やその子孫が日本人管理職の部下やクライアントとなることが多いのです。こういう方々と会ったときに、私がスペイン語を話すことで親しみを覚えていただいたことも数多くありました。スペイン語を通してのコミュニケーションに助けられた事例と言えるでしょう。

経済学部の学生たちが卒業後、グローバルに活躍する機会は多いでしょう。中でもアメリカやアメリカ系企業とのビジネス・シーンでは、スペイン語やスペイン語圏について学んだ経験は必ず役に立つだろうと考えています。そこで、担当するスペイン語のクラスでは、スペインに限らず中南米諸国について紹介したり、映像を見せたりして、スペイン語だけではなく、その背後にある文化にも目を向けてもらえるように心がけています。サッカーでも、食文化でも、きっかけは何でもよいのです。まずはスペイン語圏の国や文化に興味をもってもらい、さらに自分の関心のある専門分野と関連づけて、理解を深めてほしい。そのようなことを意識しながら、一人でも多くの学生たちの未来に役立てればと考えています。

さまざまな個性の学生たちが刺激しあう場所。

学生には、安直に学問を科目別にのみとらえてほしくないと思います。日吉では教養、三田では専門を学び、それぞれの科目の学びはそこで完結と考えがちですが、専門分野とその他の分野の学問を、柔軟にリンクさせて学んでもらいたいのです。例えば経済学部の学生であれば、専門の経済学を柱に、政治、思想、芸術、環境などの学問と絡めて考えてみます。一見、無関係に見える分野同士も、実は意外な関係性があると見えてきたりします。こうすることの繰り返しによって、自分なりの独特な視点と、物事を総合的に捉えられる力が養われると考えています。また学ぶことも楽しくなるはずです。

同時に、日常の中で、小さくてもよいので、目標設定をしてほしいですね。目標達成のために何をすべきかを問い、答えを出すプロセスを続けていくこと。漫然と学生生活を送るのではなく、なぜ、どうして、どうやってという、5WIHを常に頭の片隅においておくことが大切だと思います。目標達成のために問いを積み重ねることによって、自分は何者かという答えも見えてくるのではないでしょうか。

私の学生時代の経験からも、慶應義塾には、さまざまなバックグラウンドを持った学生が集まっています。日吉、三田、湘南藤沢、志木などの個性豊かな一貫校出身の学生、大学受験によって新たに全国から入学してくる学生、そして海外からの留学生。慶應義塾はこうした実に多種多様な個性がぶつかりあい、個性が交わることでコミュニケーション能力が磨かれていく場です。こういった学生にさまざまな分野の専門家である教員も加わり、互いに刺激し合い、高めあう多様性の良さ。これがまさに慶應義塾の伝統であり、素晴らしさだと思います。

(2010年7月15日取材)

※プロフィール・職位はインタビュー当時のものです。

プロフィール

1988年
慶應義塾大学法学部法律学科卒業
日本興業銀行(現みずほコーポレート銀行)入行
1998年
シカゴ大学大学院修士課程修了(MA, Humanities)
2007年
コロンビア大学大学院修士・博士課程修了(MA, Ph.D., Spanish)
日本大学生物資源科学部専任講師を経て、2010年より現職

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