教員インタビュー

トップページ > 教員インタビュー > 伊藤 行雄

教授 伊藤 行雄
研究領域 : 現代ドイツ文学(リルケ)、比較文化論(都市と文化)

研究テーマを追求するとともに、
学生の成長に充足感を覚えた日々。

ともに学ぶ姿勢。

私が大学1年生のとき学費値上げの反対闘争があり、日本で初めての全学ストが行われ、毎日、新聞やテレビのニュースで話題となった年です。三田の南校舎前の広場に約1万名の学生集会が行われるなど世間の注目を集めていました。

私の学生時代は同人誌を刊行したり、大学院の先輩方と読書会を行うなどの活動がその後の自分にとって大きな刺激になったと思っています。同人誌には評論や小説、詩、エッセイなど多くの原稿が集まり、お互いに論評したりしました。私は学部・大学院時代も一貫してドイツの詩人リルケ研究に携わってきました。リルケを通して「人間の存在とは何か」というテーマをもとに多方面の分野の研究をすることができましたし、今もそうした研究の姿勢は崩していないつもりです。

1970年に経済学部に助手として採用され、経済学部の先生方、学生たちとともに41年目を迎えました。学生時代から年数を数えると、47年間、慶應義塾大学にお世話になったことになります。

教育面では、学生たちとともに学んでいこうという姿勢を貫いてきました。ドイツ語の授業のほかに、長く担当している日吉の「自由研究セミナー」(1954年に「自由研究」としてスタートした伝統のあるセミナー)は、最近は全学部共通科目になり、そのため他学部の学生が参加して活発な議論が展開しています。その後「文学作品にあらわれた都市」というテーマに惹かれて「都市と文化」という大枠のテーマで、長いあいだこのテーマにかかわってきました。

テーマには関心があるが、プレゼンの経験が少ない1,2年生に、レジュメの作成や発表方法を指導していく。9月には合宿を行い、学生たちはあらかじめ用意したテーマで研究発表を行い、皆で議論を交わす、それをレポートや小論文としてまとめていきます。こうした作業を1,2年のうちに経験すると三田のどのゼミに進んでも役立つというのが私の考え方です。3年生の学生から、日吉での経験がとても役立っているという言葉を聴くと、大きな充足感を感じます。三田の「研究プロジェクト」という、学生が1年間で論文を仕上げる授業も担当していますが、学生たちが論文を書くことによって自信をつけていく様子が見て取れます。3年生で学生が書いた論文を、企業から見せてほしいということもあり、プロジェクトの一つの成果として、私自身もうれしく思っているところです。

自分のテーマを見つけること。

経済学部には、非常に優れた教授陣が揃っています。先生方の指導を受けて、学ぶ努力を惜しまないでほしいですね。

学問は与えられるだけのものではなく、講義やゼミをきっかけとして、自らをより広く、深めていくものです。他キャンパスの講義を聴きにいく心構えも必要です。だから、1,2年生の時代からポジティブに自由研究セミナーや講義など、さまざまな機会を利用してほしいですね。たとえば、セミナーで力を磨くことで、4年間はさらに充実した時間になることでしょう。あるいは少人数のセミナーでは、教授と学生の関係が非常に密接になります。良い先生と出会う場でもありますから、貪欲に取り組んでください。

慶應義塾大学の大きな特長として、OBOG会の存在も忘れられません。私のセミナーでは合宿とか講師招聘による特別セミナーを行いますが、その際、社会人の先輩方も積極的に参加してくださいます。皆さんは厳しいコメントで学生たちを叱咤激励してくれます。学生たちはこうした機会に社会人となった先輩方と交流もでき、良い刺激となっていると思います。

生涯のテーマに今もときめきが続いている。

じつは、体育会ボクシング部の部長を務めております。それまでは体育会系の学生には、授業の出欠も厳しく対応していたのですが、体育会の中に入ってみて、彼らが真剣にスポーツに取り組んでいることを知りました。それからは、文武両道を目指す学生たちを応援するスタンスに変わりましたね(笑)。また体育会を通じてOBの方々との交流は慶應義塾を別の角度から考える大きなきっかけにもなりました。

約半世紀近くものあいだ、そんなふうに、慶應義塾大学にさまざまな思い出を刻んできました。

もちろん、私の研究テーマであるリルケも含めて、今でも学生時代の情熱は衰えていません。今はふたたびリルケに集中しています。特に彼の美術論は優れているといわれています。ロダン、ゴッホ、セザンヌなど彫刻家や画家論を通して、リルケの詩作品とこうした芸術家の作品との関係を調べるのが当面の課題です。文学作品にあらわれた都市や街がどのように作家の目で切り取られているのか、さらに調べていくつもりです。

慶應義塾大学に学び、一生のテーマに出会えた。自由な気風の中で、有意義な時間を過ごすことができたと感謝しています。学生たちには、「半学半教」の精神のもと、先生方の指導を受けながら積極的に興味あるテーマを見つけて学生生活を豊かにしてほしい。良い友人関係を築いて、自分自身と向き合う、充実した4年間を送ってほしいと思います。

(2010年7月15日取材)

※プロフィール・職位はインタビュー当時のものです。

プロフィール

1968年
慶應義塾大学文学部独文科卒業
1970年
同大学院文学研究科修士課程修了
1970年
経済学部助手
1973年
同大学院文学研究科博士課程修了
1976年
経済学部助教授
1977〜79年
チューリヒ大学留学
1988年
経済学部教授、現在に至る

ページトップに戻る