専任講師 山本 武男
研究領域 : 19世紀フランス文学、ジャポニスム(特にゴンクール)
私は十代の後半に本格的に近代日本文学が好きになり、その背景に19世紀フランス文学がある事を知り、それで、日本文学理解のためにはフランス文学をやらねば、と慶應の仏文に入学しました。19世紀フランス文学とはそれ以来の付き合いです。
私は慶應の仏文を出た後、サラリーマンをやり、それから単身渡仏、ソルボンヌに学士入学して、学士号を取りましたが、そのころ、ユーゴーの宗教詩に関する試験を受けた際、その結果を見て、自分が、根本的には西洋の文化を背負っている人間ではないと悟り、修士課程に進んだ際、日本人であることを最大限に生かし、そのことで自分の能力を認めてもらおうと思ったのでした。また永井荷風の読者でもあるので、荷風が影響を受けたゴンクールからジャポニスムへと入って行ったのです。
私は一次資料を追っかけることを生き甲斐にしている、自称「一次資料ハンター」です。私がここで言う一次資料というのは、作家の未発表の手紙とか、ノートとか、何かを購入したりした際の領収書とか、要するに、まだ他の研究者が活字に起こして研究対象にしていない資料のことですが、そういうものを図書館巡りなどをして発見し、ごちゃごちゃした手書きの文字を読み抜くことを楽しんでいます。私が一次資料を扱うのが好きな理由は、一つには学術的に資料の第一発見者になれることの喜びが挙げられますが、何より、新資料を紹介し、これまで知られていた知識の中にそれを位置付けることで、人間の知の歴史に新たな地平を、論文や発表ごとに切り開いているのだと言う実感を得られることにあると思います。しかし、もちろん二次資料を多く扱う研究もしていく予定です。
日々塾生さんたちに接していて思うのは、とても溌剌としていて、いいなあということです。私より二十歳以上も若い方々ですが、身近でお話ししていると、年齢差を感じることはありませんし、寧ろこっちが学んでいることがしばしばです。慶應の学生生活では、自分の好きなことを中心にして生活して行かれたら、今後の人生の指針が見えて来ると思います。慶應の塾生さんたちに感じられる、何と云うことなく暢気な感じは、暢気な私でも学びたいと感じられるくらい、いい感じだと思います。懐の深い、広い意味で面白い方々がたくさんおられると思っています。私もそうですが、常に自分を成長させる環境に身を置くよう努め、日頃から自分を高めることを忘れなければ、人生はかなり面白いものになると思います。楽しんで参りましょう。
(2011年12月取材)
※プロフィール・職位はインタビュー当時のものです。
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