教授 川俣 雅弘
研究領域 : 経済学史
研究テーマは、経済学とはどんな学問か、経済学は進歩しているのかといった問題に答えることで、一般均衡理論の展開を中心に研究しています。
経済学史に関心をもったきっかけは、授業で説明された経済理論に対し社会科学を自称するほど科学的な特徴をもっているのかという疑問をもったことでした。物理学の理論などと比較して、経済理論にはリアリティを感じられませんでした。私が学部生だった1970年代にはまだよい教科書が少なく、ヒックスやサミュエルソンの古典が教科書代わりに読まれていました。かれらの著作では、理論の仮定を正当化するために、かれらの先駆者であるワルラスやマーシャルの議論に訴えていました。同様に、歴史上ほとんどの経済学者は自己の理論の妥当性を先駆者の議論に求めていると感じました。厚生経済学を構築したピグーは、1930年前後の費用論争のなかで、経済理論の妥当性は昔から同じように考えられてきたという事実に示されているという主旨のことを述べています。こうした経緯で、経済学の科学的特徴を知るには経済学史の研究が重要であると確信しました。
経済学はどんなに形式化されても、その形式体系を生成するヴィジョンが背景にあり、理論を特徴づけています。形式的理論の背景にあるヴィジョンを読み取って、経済理論を解釈し、経済理論の展開を特徴づけることに面白さがあります。
「科学science」は「知ること」を意味するラテン語が語源ですが、情報過多の現在では科学することの意義は、むしろ情報の科学的正しさすなわちその情報が論理的に無矛盾であり、反証に耐えるものであることの証明にあります。ただし、科学の多くの分野において、単独では論理的に無矛盾であっても相互に両立不能な複数の仮説が競合しています。とくに規範的分析を含む社会科学には多様な考え方が可能です。このような状況では、自説と異なる仮説を尊重しつつ、自説の科学的妥当性を明確に説明できることが重要だと思います。
(2011年12月取材)
※プロフィール・職位はインタビュー当時のものです。
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