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教授 大西 広
研究領域 :マルクス経済学

ゆっくりと進む社会の構造転換に敏感になろう
個別利益うずまく社会を個別利益から離れて客観視できる「真のエリート」を目指そう

研究テーマとの出会い、その魅力

実家のあった京都府郡部は共同体的特質を持つ社会から近代的人間関係の社会への移行期にありました。その中で、実家が営んでいた電器店業界も業態転換を開始しており、個々の経済政策の変化がもたらすのではなく、このように社会構造の変化がもたらす経済システム上の変化に興味を持ちました。「封建制」、「資本主義」、「社会主義」といった構造転換とはこういうレベルのものです。

三田のマンション上層に住んでいるとオフィスビルの電気が毎日夜12時を超えて赤々としているのが気にかかっています。日本の労働環境はどうしてこうも悪いのでしょうか。その職場においてなぜこうも「資本」が強いのでしょうか。マルクスは資本主義が産業革命後の社会では必要事=必然であったと説きましたが、それは別の技術的条件下で不必要になることをも意味します。たとえば、現在の中国では資本主義的な社会発展が有効に機能していますが、ゼロ成長の日本など先進国社会ではその賞味期限は済んでいるのではないでしょうか。私のゼミの慶應一期生たちはそうした問題意識から、労働問題とジェンダーの問題を三田論で深めました。こうして社会システムを大きな社会構造上の変動として、生産力の変動の結果として論じるのがマルクス経済学です。

学生へのメッセージ

世の中とはミクロのモデルが通常論じるような「異なる選好をもつ諸個人の集合」というよりは、「異なる利益をもつ諸個人・諸集団の集合」と見るほうが現実的です。女性と男性、都市と農村、産業と産業、そして貧者と富者ないし階級と階級はそれぞれに異なる利益を持って相対しています。そして、慶應の学生も社会のある特殊な社会階層に属する特殊利益の保持者として、その利益を守りたいと考えるのは当然です。が、それは「学問」ではなく、利益の自己主張にすぎません。そうした個人利益を離れて社会全体に通用する議論をするのが科学であり、真のエリートです。そういう真のエリートを求めます。

(2012年11月取材)

※プロフィール・職位は取材当時のものです。

プロフィール

1980年
京都大学経済学部卒業
1982年
京都大学大学院経済学研究科博士前期課程修了
1985年
京都大学大学院経済学研究科博士課程修了
1989年
経済学博士(京都大学)取得
立命館大学助教授、京都大学経済学部・大学院経済学研究科助教授、教授を経て2012年より現職

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