授業紹介:比較文化論
総合教育科目|Ⅲ系人文・社会系・比較文化論
自己から他者へ、そして再び自己へ
国際化の時代に生きる私たちにとって、異文化交流・異文化理解はさも当たり前のことのように言われます。確かに海外旅行はお手軽になり、インターネットさえあれば、私たちは自室にいながら瞬時に世界と繋がることができます。しかし世界が小さくなればなるほど、均質化を生むメディアに馴らされれば馴らされるほど、異文化体験から受ける私たちの衝撃は弱まり、文化の多様性に対する感覚を鈍らされてはいないでしょうか。
一方で、人やモノの移動が速度と規模を増す現代社会で、私たちは日々、多文化共生の大切さと難しさを実感しています。民族や人種や宗教の違いを超えて、多様な文化を認めあう思想をつくりだす知的作業が必要なのです――こう訴えたサイードよりも180年ほど前に、ドイツの詩人ゲーテは、文化的交流は各自の特殊性が尊重されるからこそ可能であるとし、その特性による言語の違いや貨幣の違いも、その交流を促進こそすれ、決して弊害にはならないと断言しました。仲介作業を経て生まれる文化交流―― 一見するとまわり道のように見えますが、異質なものをその特殊性のままに受けとめ、ゆっくりと消化する作業は、効率優先の画一化した社会システムに頼りがちな私たちに、自己から他者へ、そして再び自己へと思考をめぐらす時間を取りもどしてくれるに違いありません。
異文化にそして他者に向きあうことは、同時に自文化を確認するプロセスでもあり、とりわけ若い学生のみなさんにとっては自分自身を再発見する貴重な機会でもあります。「比較文化論」の授業では、グローバル社会と言われる現代において、これから国際人として活躍しようとする学生のみなさんに、地球上の多彩な文化の営みを柔軟に受けとめ、その反映のなかで自己を見つめるきっかけとなるような話題を提供し、ともに思考していきたいと考えています。
(教授 山本 賀代)