授業紹介:文学
総合教育科目|Ⅱ系人文・社会系・文学
作品の向こうに在る人間の過去と現在、未来を考える。
大学という場で教養を学ぶ利点は、研究方法や沢山の資料に触れて、自分で教養を深め、指針となる智恵を得る術を手にすることだと考えます。受験勉強のように暗記するのではなく、知識の活かし方を体得するのです。ぜひ将来にわたり自らの進む道を照らす光となるような多くの智恵を身につけられることを願っています。
さて、文学とはどういう学問なのでしょう。例えば福澤諭吉先生の著書『西洋事情』において、「文学」という語が「学問」と同義に用いられているように、もともとは、学問や学問をすることを意味します。これは「文」の一字に文字や言葉というだけでなく筋道や法則という意味があるからです。今の認識とずいぶん違うように感じるかもしれませんが、『古今和歌集』の定義に従えば、作品は「人の心を種として」生まれてきたもの。つまり、人間が生む感情や思考が生み出したもの全てが文学という探求の対象として見なしうるのです。故に文学の授業には、様々な時代や地域の、多様な表現を対象としたカリキュラムが用意されており、教員の切り口も様々です。
例えばこの写真の授業では、江戸時代の出版文化の中で圧倒的な出版部数と点数を誇った絵入り小説(草双紙)を取り上げています。17世紀前半の江戸で生まれた文と絵が等しく重要なこのジャンルは、表現の面で日本古典文学の伝統を内包し、それ以後の小説・映像作品・マンガへと繋がる要素を数々発明しています。また市場経済の商品という側面に注目すれば、政治と経済と密接に結びつき、江戸時代に立ち上がる印刷・出版メディアの変遷を体現しています。新しいメディアによって知識伝達がどうなるか、人々の意識がどう変わるか―実は江戸時代に於ける展開や問題が現在と重なる点が多いということにきっと気づくでしょう。結果、過去を見ながら我々の今を考えることに繋がっていくのです。
目の前にある表現の向こうにいかに多くの意味をくみ取るか。人間の来し方を考え、未来を予見するか。文学を通じてそんな想像力を蓄えていただきたいと思っています。
(教授 津田 眞弓)