下町風景に関する人類学的考察―現代東京における下町の意義
[自発展開型]
矢野 沙耶香(経済学部3年)
指導教員:伊藤 行雄
2008年2月29日
要旨
都市の開発が次々と進む中、長らく昔の面影を残していた下町風景も姿を消そうとしている。下町に残していくべきものは無いのだろうか。かつては大衆 の生活の場であった下町は、現在ではノスタルジアを感じる風景として一部は観光地になるなど、現実の世界から遠ざかったところに下町のイメージだけが浮か ぶという事態である。下町は東京人の過去(すなわち農村生活)から受け継ぐ生活風景を継承した場であり、今日に至っては過去を演出する場としても機能し始 めた。それが東京人の深層心理に見えがくれする郷愁文化の一つの型といえる。 失われるものへのノスタルジアは人類共通の心理現象であるが、下町は都市で生活する人々にとってフォークロリズム以上の意味を持っている。それは非理論的 な本来の人間生活を想起させる場であり、下町の消滅は過去からの連続性の断絶を意味することになる。我々は次世代の東京人のためにも下町風景を継承するべ きである。