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教員インタビュー
延近 充 写真1

教授 延近 充
マルクス経済学
現代資本主義論

「半学半教」の精神が私を成長させてくれた

私が経済学部の専任教員になった当時は助手制度があり,現在と違って三田の専任教員のほとんどは経済学部出身という時期でした。助手になっても最初の3年間は授業を担当しない原則だったので,博士課程で研究しながら給料ももらえるという恵まれた境遇でした。それ以外の大学院生時代との大きな違いは学部会議に出席することぐらいでしたが,その頃の学部会議は夜7時頃まで続くのがしばしばだったのを覚えています。1960年安保時に学生運動をされていた先生や,1970年安保時の大学紛争を受けた経済学部改革を主導された先生方が大勢いらっしゃったので,教育や研究を充実させるために何が必要かという真剣で白熱した議論となったからです。その議論から教育や研究について多様な考え方があることを学びました。

助教授に昇格した頃,鳥居泰彦先生が学部長となり,助手制度が廃止されるとともに,カリキュラムや入試制度の大幅な改革が進められました。カリキュラム改革では,それまで日吉キャンパスにはミクロ経済学,マクロ経済学,マルクス経済学それぞれの基礎理論を教える必修科目があったのですが,理論だけではなく,現実の経済に関心を持ってもらうという目的で,世界の経済や日本の経済の現状を教える科目が新設されました。鳥居先生から「延近君,君も世界の経済を教えなさい」と指示され,3コマ併設の「世界の経済」を担当することになりました。

授業内容は3コマとも共通にする原則だったので,国際経済学の入門書を教科書にすることになりました。私の専門はマルクス経済学を基礎として国際政治や軍事要因を含めてアメリカ経済を分析することでしたから,アメリカ経済と世界経済との関係についての知識はあっても,国際経済学を専門的に勉強したことはありません。それで教科書を必死に勉強して講義ノートを作り,何とか授業をこなすというのが担当1年目でした。ただ,これまで知っているつもりでいたことが,異なる専門分野の視点で書かれた本を読んでなるほどと感じることも多く,自分にとっても理解の深まる経験でした。

2年目になると,国際経済学の発想もわかり,教科書にはこう書いてあるが,別の見方をするとこういう解釈もできる,経済現象には別の因果関係や歴史的関係も影響している可能性があるというようなことを,自分で作った統計表やグラフなどを使って教えるようになりました。三田では自分の専門の特殊科目「戦後アメリカの軍拡と経済」の講義,日吉ではマルクス経済学の基礎理論の講義,そして「世界の経済」と大教室での講義を3コマ担当するのはたいへんでしたが,専門外のことも教えるという経験は私の視野を広げてくれ,自分の専門分野の研究にも役に立ちました。

また,入試制度改革は世界史と日本史の出題範囲を近代・現代に限定するというもので,カリキュラム改革と同様に,経済学部を志望する受験生には現代の経済や社会に関心を持ってもらいたい,高校までの歴史教育もそうした視点を持ってもらいたいという意図がありました。こちらの改革にも鳥居先生の依頼(というより半強制的指示)で関わることになり,国際経済学だけでなく,経済史や思想史,計量経済学,マクロやミクロの理論などを専門とするスタッフとも一緒に仕事をする機会が与えられました。改革の趣旨をどう具体化すればいいのかという議論では,それぞれの考え方がぶつかり険悪な雰囲気になるほど白熱することもありましたが,それはメンバーみんながこの改革に真剣に取り組んだからこそでした。こうした議論を通じて,多様な分野の人たちの発想や歴史認識・現状認識に接することができたのも,私の視野を広げてくれる有意義な経験でした。

そして教員としての経験も同様です。私の講義を熱心に受講していた学生が質問にきた際,私の回答を聞いて「なるほど!」という表情にパッと変わると,教育の喜びを感じるとともに,さらに学生の関心と理解を深める授業をする責任を痛感させられました。私のゼミナールでの学生との議論,OB・OG会での卒業生との議論や交流はさらに濃密なものですから,彼らから学ぶことも多く,研究と教育のモチベーションとなったのはもちろんです。経済学部に入学してから40年余り,定年を迎えて今までを振り返ると,私を支え成長させてくれたのは「半学半教」の精神だったと改めて感じていますし,これからの人生もそうありたいと考えています。

(2017年12月取材)

プロフィール

延近 充 写真2
               

1979年

慶應義塾大学経済学部卒業

1981年

同大学大学院経済学研究科修士課程修了,慶應義塾大学経済学部助手就任

1984年

同博士課程単位取得退学

1991年

助教授を経て2012年より現職

主著

2012年

『薄氷の帝国 アメリカ』(御茶の水書房)

2015年

『21世紀のマルクス経済学』(慶應義塾大学出版会)

2018年

『対テロ戦争の政治経済学』(明石書店)

※プロフィール・職位は取材当時のものです

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