東方ユダヤ人の合わせ鏡-イディッシュ文化-
[自発展開型]
石井 友章(経済学部4年)
指導教員:羽田 功
2008年2月27日
要旨
約2000年もの間、自国を持たずに世界各国に離散していたユダヤ人たちに共通する性質、“ユダヤ性”を探求することが本論の目的である。
中近世の東方ユダヤ人を代表する文化、特にイディッシュ語に着目し、イディッシュ語が東方ユダヤ人のアイデンティティになり得るかどうかを歴史的記述、文献から考察する。中世ドイツにおいて、ドイツ語をベースに形成されたイディッシュ語は、地域社会とのコミュニケーション言語として活用され、ユダヤ人訛りのドイツ語と揶揄されていたが、後の迫害・追放によりスラブ語圏である東欧社会に入ることで外社会からユダヤ人独自の言語だと認知され、東方ユダヤ人たちイディッシュ語を母語とすることで確固たるアイデンティティとして確立した。
イディッシュ語自体にに内在するユダヤ性について考察してみた結果、イディッシュ語はユダヤ人のアイデンティティとして認知される一方で、イディッシュ語自体の起源が非ユダヤ社会の言語であり、厳密にはユダヤ人達のアイデンティティとは言えないという自己矛盾が生じている。離散の不安定さやその状況に向き合うユダヤ人たちを形容しているという意味でイディッシュ語の中に確かにユダヤ性が垣間見えると結論づけた。