教授
河備 浩司
数学 (確率論, 確率解析)
人との出会いを紡いでいくことで, 自分のやるべきことが見えてくる
研究テーマとその出会い
高校時代から数学は好きでしたが, 特に確率・統計の授業で「確率論は解析学の一部である」と先生が言っていたのが妙に印象に残りました。当時は数学が他分野にどう応用されるかにも興味があったので, 進路を選ぶ際にその先生に相談したところ, 経済学部で数理経済学をやったらどうかとアドバイスを受け, 経済学部に進学しました。日吉の学生の頃は経済学の講義にはあまり興味を持てずに時間を無駄に費やした感もありますが, 三田に進級後は数理経済学のゼミに入り, ゼミの優秀な先輩達からの刺激を受けながら一般均衡理論とそれに関連する数学の勉強を始めました。結局は数学の方が面白くなってしまったので, 大学院から数学に転向しました。矢上の大学院では, 学部での解析学の勉強の続きで変分法に関係した偏微分方程式の研究のまねごとをやっていましたが, ある日ふらっと出席した幾何学のセミナーで, 偏微分方程式や幾何学の諸問題に, 確率論が経路空間上の解析学として応用されていることを知り, 感銘を受けました。色々と考えた末に, 自分のやりたいことはやはりこれだと思い, そのセミナーの講演者の先生の下で確率論を本格的に勉強しようと慶應の外に出ました。その後, 国内外の色々な場所での人との出会いに恵まれましたが, これらを紡いでいくことで, 確率論の研究の道に進むことになりました。
研究テーマの魅力、面白さ
確率論は, 統計力学や量子力学などの物理学, 生物学だけでなくファイナンス理論や理論経済学でも幅広く使われており, 応用との関連を意識できる分野です。その中でも, ブラウン運動などのノイズが刻一刻と加わって変化していく確率現象を数学的に厳密に理解するために日本人数学者伊藤清が第二次世界大戦中に創始した確率積分や確率微分方程式の理論は, 確率解析という研究分野として現在も発展を続けています。この研究分野は, 確率微分方程式の解をブラウン運動の汎関数として扱うことで経路空間なる無限次元空間上の解析学という側面も持ち合わせており, 私が確率論を専門にしたのは, 大学院生時代にこういったものの考え方を面白いと感じたからだと思います。その一方で, 単純ランダムウォークの時空間のスケール変換の極限がブラウン運動になることは良く知られていますが, このスケール極限という考え方を通して, 離散的な空間上の幾何や解析にも確率論が有効な道具として積極的に活用されています。ここ数年, 私は結晶格子やベキ零被覆グラフなどの周期性を持った離散モデル上のランダムウォークを研究し, スケール極限として捉えられる確率微分方程式の解や熱核の長時間漸近挙動などを調べていますが, そこで得られたいくつかの極限定理に現れる量が変分原理で理解できることも面白いと感じています。今振り返ると, こういった感性は学部での理論経済学の勉強を通して養われていたのかもしれません。
学生へのメッセージ
経済学に限らず面白いと思った事に在学中はとことんのめり込めば良いと思います。慶應の経済学部にはそれを受け入れる懐の深さがあるはずです。また慶應は規模の大きい総合大学なので, 学生の出身地のバラエティが豊富です。地方出身の学生は東京での新たな生活に刺激を受け, 視野が広がっていくと思いますが, 逆に塾内進学の学生ら東京周辺出身の学生も, 地方出身の学生と積極的に交流して, 東京中心でない視点からも複眼的に物事を考えられるようになって欲しいと思います。などと堅苦しいことを書きましたが, 何はともあれ充実した大学生活を送って, 卒業後もつきあえる友人を作って下さい。一生の財産です。
(2018年12月取材)
プロフィール
1991年3月 |
慶應義塾志木高等学校卒業 |
1995年3月 |
慶應義塾大学経済学部卒業 |
1997年3月 |
慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程修了 |
1999年3月 |
東北大学大学院情報科学研究科修士課程修了 |
2004年3月 |
東京大学大学院数理科学研究科博士課程修了 |
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その後, 日本学術振興会特別研究員(大阪大学大学院 |
※プロフィール・職位は取材当時のものです |