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教員インタビュー
千賀 達朗 写真1

准教授 千賀 達朗
マクロ経済学、企業行動

日本企業の将来を担う人材と新たな発見をしていきたい

研究テーマとその出会い

景気循環や経済成長といった経済全体のダイナミクスを研究テーマにしています。特に、企業部門において資源の効率配分が損なわれるメカニズムについて、資金調達環境や不確実性などを研究対象としたプロジェクトを進めています。限られた資金を成長期待が低い企業よりは成長期待が高い企業に配分したい。しかし現実にはそうした資源配分は達成されず、経済全体のパフォーマンス低下につながるという話なのですが、代表的な企業を想定する伝統的なマクロ経済学の手法ではこの問題を考えることが難しいんですね。生産性の高い企業もいれば低い企業もいる。有利子負債比率の高い企業もいれば無借金企業もいる。異質的な企業を明示的に描写する経済モデル、いわば箱庭を作成して、なぜ資源がうまく配分されないのか、企業行動やそれを取り巻く制度・政策についてシミュレーション分析をするというのが主な仕事です。
この研究分野に導いてくださったのはゼミの先生です。シミュレーションスキルなどは持ち合わせていませんでしたので、問題意識を整理するような卒論を書きました。卒業後に日銀で担当した産業調査の仕事では、支店長に随行する八幡製鉄所往訪が楽しみで、こういう時は加速度原理がよくあてはまるんだよ、と関連企業群の設備投資行動を理論でひも解く姿から多くを学びましたね。その後留学の機会に恵まれ、ゼミの先生の勧めで留学したOhio Stateで、最先端の箱庭づくりのトレーニングを受けることができました。ゼミ選びが全ての始まりだったといっても過言ではありません。

研究テーマの魅力、面白さ

一つの箱庭を作るには数年かかりますがとても楽しいです。箱庭の中にはいろいろな企業がいますから、なかには自分が想定していなかった行動を取る企業もいます。例えば、資金調達スタンスが一見すると過度に慎重な企業など。でもよく箱庭を分析・精査していくと、資金調達に慎重な理由がわかってきます。箱庭の企業は将来の不確実性を正確に勘案して、将来破産申請する必要がないように慎重だったりします。
ただやはり自分で作った箱庭なので、最終的には隅から隅まで箱庭の中で何が起きているか理解できるようになってきます。そこで今度は箱庭の中で経済政策を実行してみるのです。政策を実行すると企業は反応し、これまでと違う行動を取ります。そうすると、箱庭の景色が全く変わることがあります。例えば中小企業を支援することで彼らに大きく成長してもらおうと税制を優遇します。すると優遇税制を受けられない大企業にはなりたくないと、中小企業は成長を鈍化させます。彼らが雇用や設備投資に消極的ですから、大企業はこれを好機とみて規模を拡大します。厳しい競争環境をながめて新規参入企業は減少し、経済全体のイノーベーションも停滞する。全然意図していなかった結末です。周りの状況が変われば企業も行動を変え、経済全体も時間をかけて動いていく。こういったダイナミックな社会現象を分析対象としているのがマクロ経済学の醍醐味かと思います。

学生へのメッセージ

陳腐化しにくい問題意識、企業経営でいうパーパスのようなものを大事にしてほしいですね。これまでは海外から日本企業や経済全体のパフォーマンスを考えてきましたが、今何といっても楽しみなのは日吉と三田の授業でみなさんとこの問題を考えていくことです。今後の日本企業、産業、ひいては経済全体を引っ張っていくみなさんと対峙できるキャンパスに来られたことはこの上ない幸運です。

(2020年12月取材)

プロフィール

千賀 達朗 写真2

2006年

慶應義塾大学経済学部卒業

2006

日本銀行入行

2015

オハイオ州立大学Ph.D. (経済学)

2015

ロンドン大学クイーン・メアリー経済学部

2020

慶應義塾大学経済学部(現職)

※プロフィール・職位は取材当時のものです

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