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教員インタビュー
不破 有理 写真1

教授 不破 有理
アーサー王伝説・中世主義・『アーサー王の死』出版史

言語から想像し、言語を創造する――研究を教育に

経済学部での教員生活の思い出について

私の研究対象はアーサー王です。6世紀頃に活躍したとされる伝承の人物で、主に英国中世から19世紀までに語り継がれた文学を専門としています。なぜアーサー王を21世紀の日本人が研究するのかと問われれば、答えは簡単、「面白いから」。そして面白いことを学生にも伝えたい、そのような単純な動機から研究の一端を教育にも活用してきました。 経済学部の英語科目はすでに数十年前から「英語を学ぶ」から「英語で学ぶ」に教育方針を転換させました。英語部会の先達の努力の賜物です。「英語で学ぶ」とは、あるテーマについて英語で読み、プレゼンテーションをし、エッセイにまとめ、英語力を養いながら、知識や考察を深めることです。この科目は「英語セミナー」と呼ばれ、教員は専門を生かしたテーマを設定し、シラバスを組むことができるのです。

私の場合は2つの英語セミナーを長年担当してきました。ひとつは、18-19世紀の英国の産業革命期における社会と産業、そして女性の地位の変化について、英国の高校生向けの歴史教科書を用いて学びます。テキストには地図やグラフはもちろん、風刺画や200年以上前の文書もあり、学生さんにとって読み解くのはなかなか厄介です。しかし難しくても「時代の生き証人」ですから、読まなくてはなりません。そのうえで、ロールプレイングやディスカッションを通して、なぜ当時の人々がそのような決断や行動をしたのか、考えてもらいます。少しでも当時の人の思考に近づくことによって、学生諸君は人の行動や施策には現代にも通じるパタンがあることに気づき始めます。たとえば、なぜコレラは、瞬く間に広がり、何度も繰り返され、多くの犠牲者が出たにもかかわらず、対策が進まなかったのか。医学知識の不足のみならず、変化したくない(保守本能)、させたくない(既得権益)、面倒だから(人間的⁉)、自分には関係ないから(無関心と差別意識)といった、人々の心理が絡み合う要因に思いいたるわけです。歴史を学ぶことは、一つの事象を単純化して考えてはいけないことを学ぶことだと思います。辛抱強く資料を読み解きながら、言葉が発する当時の人々の思いを想像し、自分の言葉で自分の考えを語ること、そのような機会を少しでも提供できたのであれば、うれしい限りです。

もう一つの英語セミナーでは英文学と絵画を結び付けたシラバスを展開しました。英国詩人アルフレッド・テニスンがアーサー王伝承をもとに書いた詩“The Lady of Shalott”(1832・42年)を読み、詩行が喚起するイメージとテーマを、どのように当時の画家たちが視覚言語に変換しているか、考えてもらいました。まず絵画の読み解き方や表現を学ぶために、グループで絵を見ながら英語で描写し、印象を語り、書く練習を繰り返し、英語論文を読み、最後には自分のお気に入りの1枚の絵について発表します。観察から得た主観的な印象論をどのように客観的な論証に仕上げることができるのかがポイントです。詩を読むのは難しいのですが、絵画と掛け合わせることで、最終発表の時には、学生はさらさらと詩行を引用しながら、独自の解釈を、実に立派に英語で発表できるようになります。「難しくても面白い」に変化するのです。生涯、英詩を読む機会はさほど多くはないでしょう。大学時代に、西欧でも名詩とされる詩を読む体験は人生の糧になると信じる教員が、シラバスにこめた意図を、学生さんの発表で実感できるのは教師冥利に尽きます。

人を動かすのは、好奇心と探求心、そして発見した喜びを仲間と分かち合うこと、これらを通しながら、学生は学びます。これができる経済学部の学生諸君は素晴らしい。このような学生諸君と出会え、真剣に楽しめたこと、このようなカリキュラムを可能にした英語部会の諸先輩方、自由な教育と研究を許容する慶應義塾と経済学部の学風と寛大さに感謝をささげて、40年間という長きにわたる教員生活の〆とさせていただきます。学生たちの将来のためにも、このような教育や研究が深められることを願ってやみません。

プロフィール

不破 有理 写真2

1976年

神奈川県立光陵高校卒業

1976年

横浜国立大学教育学部英語科入学

1978年~1979年

文部省(現文部科学省)海外留学派遣制度よりケンブリッジ大学ホマトン・コレッジ留学Elisabeth Brewer氏に師事

1980年

慶應義塾大学大学院文学研究科英米文学専攻修士課程入学

1982年

同大学院博士課程入学・慶應義塾大学経済学部助手

1985年

同大学院博士課程満期単位取得退学

1988年

北ウェールズ大学(現バンガー大学)修士課程入 学 Peter Field氏に師事
同大学修士号取得(アーサー王伝説課程)

1991年

慶應義塾大学経済学部助教授

1998年

慶應義塾大学経済学部教授

2008年~2010年

慶應義塾教養研究センター副所長

2010年~2014年

慶應義塾教養研究センター所長

※プロフィール・職位は取材当時のものです

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