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教員インタビュー
津谷 典子 写真1

教授 津谷 典子
人口学、計量分析法

歴史人口研究から忍耐とオープン・マインドの大切さを学んだ

研究テーマとその出会い

今回、義塾賞を頂く対象となったのは2010年にMIT Pressから出版した Prudence and Pressure: Reproduction and Human Agency in Europe and Asia, 1700-1900という歴史人口学の本です。私の主な研究テーマは戦後の先進諸国の出生力と家族で、歴史についてはまだ「勉強中」です。
歴史人口学との出会いは、私が米国シカゴ大学の大学院生であった1980年代前半にさかのぼります。そこで計量分析法に関する一連の講座を履修し、歴史人口データを用いて作られた様々な推計手法を学ぶ機会を得ました。当時、私はまた同大学の人口研究センターの研究助手をしており、そこでフロンティア期の米国人口の研究に参加し、歴史人口分析の手解きを受けました。

研究テーマの魅力、面白さ

上記のPrudence and Pressureという本は、18~19世紀の東北日本、東北中国、イタリア北部、スウェーデン南部、ベルギー東部を比較分析することで、工業化以前のユーラシア社会の人口再生産と地域経済や世帯構造の影響の解明を試みたものです。この研究には各々の国・地域を担当する5つの研究チームが関わり、膨大な歴史人口・経済データベースを構築し、同一分析モデルを用いて比較分析を行いました。私は日本に関する分析の責任者であり、またこの本の第一著者として研究成果全体を取りまとめました。この国際比較研究を始めてから本の出版まで10年以上かかったのですが、この経験を通じて学んだことは忍耐とオープン・マインド(先例にとらわれず柔軟な心をもつこと)の大切さです。
分析法の視点からみると歴史人口データは不完全データで、不足している情報を当事者に尋ねることはできません。また、当時の社会や経済に関する情報を得ることも難しい場合が多く、入手できるデータを最大限に生かして創意工夫を重ねる必要があります。歴史人口データの分析は時間のかかる作業で、長期にわたる忍耐力を必要とします。
生きている人や世帯からデータを収集する(生存者からしかデータが収集できない)現代人口調査のデータとは異なり、歴史人口データには人間や世帯の誕生と死亡・消滅、そしてその間に起こるさまざまな出来事が記録されています。それを分析することで、新たな発見や予想しなかった結果との出会いがある一方で、人間行動の普遍さを実感できることが、歴史人口研究の尽きない魅力だと思います。

学生へのメッセージ

技術革新が急速に進む中で、さまざまな情報を得ることが飛躍的に容易になり、以前は多くの時間がかかった複雑な作業も簡単にできるようになってきました。このような環境の下で、学生諸君も最小限のインプット(努力)で最大限のアウトプット(結果)を得ようとする傾向が強くなっているように感じます。しかし、物事の重要さと価値はそれを達成することの難しさに比例する場合が多く、そのための努力を惜しまないことが大切です。単位を最小限の努力で取ることを目的とするのではなく、大学の講義やゼミを通じて、人生を物心共に豊かにするために必要な「知的体力」を養ってもらえればと思います。

(2014年12月取材)
※プロフィール・職位は取材当時のものです。

プロフィール

津谷 典子 写真2

1977年

南山大学外国語学部英米科卒業

1986年

米国シカゴ大学大学院博士課程修了 Ph.D.

1986~89年

米国東西センター人口研究所リサーチ・フェロウ

1989~93年

日本大学人口研究所助教授

1993~98年

日本大学経済学部助教授を経て1998年より現職

2001年

米国カリフォルニア工科大学客員教授

2014年

義塾賞受賞

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