専任講師
加藤 伸吾
スペイン現代史
学生時代の旅行がきっかけでスペイン民主化の歴史的研究に
スペイン独自の歴史認識問題にも関心
研究テーマとその出会い
スペイン政治の現代史、特にスペイン民主化(1970年代中頃)を、政治と言葉、政治やマスコミのエリートがどのような言葉で政治を伝えたか、また一つの言葉の多義性とその意味の間の「力関係」という観点から勉強しています。民主化時代にはスペイン内戦(1936~39年)で分断されたスペイン国民の「和解」達成が喧伝されましたが、その後75年の総選挙を境にその「和解」が鳴りを潜め、突然スペイン国民の「合意」が前面に出てきます。その理由を探ることが今のテーマです。
学生時代のスペイン旅行で、たまたま総選挙を見ました。その総選挙では15年ぶりの政権交代が行われ、約80%の高い投票率で、マドリード中心部では大変な盛り上がりでした。今の東京では考えられないことです。これがスペイン政治に興味を持ったきっかけのひとつです。
また、2006~08年に仕事で同じくマドリードに滞在しました。2008年はスペイン現行憲法の制定30周年、大勢の市民が参加するイベントでは、先ほどの「和解」や「合意」が持ち上げられました。しかし、その「和解」が不十分として制定されたのが2007年の歴史的記憶法で、そこで内戦やフランコ独裁(1936~75年)の犠牲者への補償などが決まりました。しかもこの法律は一部に「誰も満足しない」と評価されました。おかしな話です、「和解」は民主化の時に達成されたはずなのに。
この辺りの、自分の目で見たスペイン政治の情景が、今職業としてやっている勉強の原風景にあります。
また、授業ではスペイン事情に加えてスペイン語も教えていて、数年前に文法のドリルを出版しました。外国語教育法も、今後さらに勉強しなくてはと思っています。
研究テーマの魅力、面白さ
多くの人が知っており、かつ重要と考える事例に関して、今までとは異なる知見を打ち立てるのに貢献できる、ということでしょうか。
スペイン民主化といえば、推進した「主役」の国王や首相が派手だったため、華やかな「成功例」とされます。民主化や民主主義とは何かを考えるのに良い事例ですが、実はまだ独裁者フランコが死んでから40年。これから出てくる史料もあるはずで、既にある史料の読み直し含め、再解釈はこれからです。
また、東アジアでは歴史認識問題が内政・外交上の争点になっています。スペインにも歴史認識問題が存在します。スペインは内戦と独裁後の歴史認識ですから、基本的には国内問題ですが、それでも「客観的な」歴史認識をいかに確立するか、あるいは歴史認識が政治問題化しているという点では変わりません。東アジアの諸事例の理解に貢献できる何かがあるかもしれない、と思って勉強しています。
学生へのメッセージ
ご自分の興味を大切にしてください。勉強する時の情勢から考えれば無駄のように思えても、1年、2年、3年、5年、10年、あるいはもっとその先の自分や世の中に役立つことが、実はたくさんあることは、実業界の先輩方も仰っていることです。短期的に無駄かどうかにとらわれず、長期的にご自分の興味を伸ばしていくことに意を注いでください。
また、勉強する癖と方法を身につけてください。細かい時間や体力は、社会に出てからでも作ろうと思えば案外作れるものですが、勉強の癖と方法を身につけるには、じっくりと取り組むまとまった時間が必要です。つまり、学生時代がチャンスです。できればまだ行動・思考パターンが固まりきっていない若いうちが望ましいですが、目覚めた時が始め時、早ければ早いほどいいでしょう。勉強の必要性は、刻々と変化する現代においては、むしろ社会に出てからも変わりません。
しかも、社会に出てからの勉強で得たり失ったりするのは、単位ではなく、社会人、人間としての実績と信用です。特に日吉にいる間に学ぶ、外国語含む人文系の科目は、スペイン語ではhumanidades(ウマニダーデス)と呼び、元の意味は「人間らしさ」です。普遍的な人間らしさを磨いて、世界で信用され実績を重ねられる人間を目指しましょう。
(2016年1月取材)
プロフィール
1999年 |
上智大学外国語学部卒業 |
2002年 |
上智大学大学院外国語学研究科博士前期課程修了 |
2010年 |
スペイン国立遠隔教育大学政治・社会学部博士課程修了 |
※プロフィール・職位は取材当時のものです |