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教員インタビュー
杉岡 洋子  写真1

教授 杉岡 洋子 
理論言語学(形態論、語彙意味論、統語論)

英語カリキュラム改革と言語のしくみの探求

英語のカリキュラム改革に関わって

慶應義塾に着任して34年間、主に経済学部の英語の授業を担当してきました。着任当時、英語クラスは50人が基本、ある年など英作文のクラスが60人以上で、双方向の授業は容易ではありませんでした。その後、カリキュラム改革によって語学クラスの人数が縮小され、30人や20人のクラスが普通になったことは大きな前進でした。

さらに、英語は既習語学であることの強みと、語学学校ではなく大学で学ぶことの意義を皆で考え議論した結果、英語を学ぶのではなく、各教員の専門性を生かしたテーマを「英語で」学ぶという「英語セミナー」が経済学部の英語カリキュラムの柱となりました。次に、英語セミナーをより効果的に学ぶための「英語Study Skills」が1年生の必修科目として加わりました。これは、英語の文献を英語でまとめ、調べて考えたことを英語で口頭発表して論文に書く技術を、日本語を介さずに習得するもので、授業も英語で行います。英語部会の教員が分担して作成した授業資料は、何年かの試行錯誤を経て慶応義塾大学出版会から教科書として出版され、改訂が続けられています。

1年生42クラス全員が、英語を使って学び発信するための技術を習得した上で、英語セミナーで自分が選んだテーマを自由に組み合わせて学んでいくという経済学部独自のカリキュラムは、これからも進化していくにちがいありませんが、その基盤作りに関われたことは、私にとって楽しく意義深い思い出です。

言語学から人間の心のしくみを探る

私はまた、慶應義塾言語文化研究所の兼担所員として理論言語学を研究し、文学部の言語学特殊講義で語形成と語彙意味論についての授業も担当してきました。

言語学を志したきっかけは、学生時代にノーム・チョムスキーの「言語の研究は人間の心の研究だ」という一節を読んで衝撃を受けたことです。シカゴ大学の博士論文は、生成文法モデルにおける語形成と統語論の関係を考察したものですが、日本語の語形成を広く扱った基礎文献としてNYのGarlandから出版され、今年(2019年)ロンドンのRoutledgeから再版されました。

その後も一貫して、言語の基礎である語という単位がもつ規則性と不規則生(語彙性)に焦点を当てて研究を進めてきました。複数の要素を組み合わせて語を作る語形成には、形容詞「高い」と接辞「さ」から名詞「高さ」を作るような、統語規則と本質的に変わらない規則性や生産性を示すものがある一方で、「高み(=高い場所)」のように意味がもとの要素(「高い」+「み」)の単純な組み合わせから予測できず、語全体が辞書に登録されるものがあります。このような語形成の動的な側面と静的な側面は、実は人間の言語に本質的に備わった二面性でもあり、その理論化は文法モデルを左右する争点となっています。

この言語の二面性を探求する過程で、東京大学の伊藤たかね氏(英語学)と東京都立大学(当時)の萩原裕子氏(言語脳科学)との貴重な出会いに恵まれ、語形成に「記憶」と「規則」という二つの異なる心的メカニズムが関わるという仮説にもとづく実証的な共同研究を展開し、失語症患者を対象とした実験や健常者の脳波計測といった手法を使って、有意義な成果を公刊することができました。言語学を始める糸口となった「人間の心のしくみの探求」という目標に向けて、研究を続けていきたいと考えています。


経済学部で自由に議論しながらカリキュラム改革や教育に取り組めたこと、また日吉の学際性の豊かな環境で研究ができたことを大変ありがたく思います。慶應義塾の教育と知的探求がさらに良い形で発展していくよう願っています。

(2019年12月取材)

プロフィール

1977年

神戸女学院大学文学部英文学科卒業

1984

シカゴ大学言語学研究科博士課程卒業(Ph.D.)

1986年

慶応義塾大学経済学部助教授(英語)

1996年〜

慶応義塾大学経済学部教授

※プロフィール・職位は取材当時のものです

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